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== アベンジャー由紀 ==

アベンジャー由紀 (16)一筋の明るい光

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アベンジャー由紀 目次

アベンジャー由紀 (16)一筋の明るい光

最愛の母を失い、父の安弘からも見放されて、閉鎖病棟に移された由紀が社会に復帰するチャンスはもう無くなったと思われた。

しかし閉鎖病棟で出会った医師は、由紀の心を覆った漆黒の闇に一筋の光を投げかけた。


彼女の名前は生島冴子。まだ20代の若い医師だが、由紀のように優しすぎるが故に心に傷を負ってしまった患者を数多く診てきた。

天国にいる淑子はひとりぼっちの由紀が不憫で、そんな冴子をひき合わせたのかも知れない。

冴子はカルテを見て、由紀の優しすぎる心が病状を絶望的に悪化させたのだとすぐに理解した。まるで淑子が乗り移ったかのように冴子は献身的な治療を行い、由紀の回復のために出来る限りのことをした。


まず冴子がしたのは、由紀の心を深い暗闇から引き上げるコトだった。向精神薬による薬物治療と同時に、冴子は時間が許す限り由紀に寄り添って話しかけた。

冴子が話しかける内容はその日の天気など、他愛のない世間話ばかりだった。そして一緒にいるときは出来るだけ手を握るなどのスキンシップを続けた。

冴子が一緒にいられないときは、冴子から指示を受けた看護師が同じように付き添った。

そんな冴子の地道な努力が、闇に閉ざされた由紀の心を少しずつ小さな光で照らしていった。


「由紀ちゃん、今日もいい天気よ」
いつものように冴子はベッドの横に座って由紀に話しかける。由紀は何を話しかけても、うつろな目を天井に向けたままで、まぶたを閉じてうなずくだけだった。

しかしその日の由紀は違った。頭をゆっくりと傾けた由紀は
「見たい…」
冴子の目をジッと見つめて小さくつぶやいた。

「そ、そう…、見て、いい天気よ」
胸にこみあげてくるモノをぐっとこらえた冴子は、優しく由紀を抱き起こすと窓の外を見せた。
「ほんと…、いい天気…」
ベッドに座った由紀はキレイに晴れ上がった空をみつめて、かすかに笑みを浮かべていた。

「うん…、ホントね…」
由紀の笑顔を初めて見た冴子は感情を抑えきれず、やせたカラダを抱きしめると声を押し殺して泣いていた。

アベンジャー由紀 (17)につづく
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アベンジャー由紀 (15)精神的自殺

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アベンジャー由紀 (15)精神的自殺

優しい子になって欲しい。

これが生前の淑子が由紀に一番願ったことだ。そして淑子の願い通り、由紀は優しい女の子に育った。

淑子がそう由紀に言い聞かせたからではない。淑子自身がそういう人だったからだ。淑子は由紀にも夫にも誰にでも、精一杯の愛情を注いで生きてきた。

優しい母の姿を見て育った由紀は、誰にでも優しい、心の痛みを知る女の子になった。


母譲りの愛にあふれる明るい少女だった由紀は、強姦グループに踏みつけにされて心を穢された以上に、あの少年の死によって癒しきれない深刻な傷を負わされた。

由紀は少年の死を自分のせいだと感じて自問自答し、執拗に自分を責め続けた。あのとき自分がもっと違った対応をしていれば、少年が死ぬコトはなかったと自らに責任を問い続けた。

由紀が同じ悪夢に取り憑かれた原因は、ここにあった。


そして自傷気味な心の傷に悩まされ続けていた由紀に、母の死は決定的だった。母の死は由紀の心を完全に崩壊させ、精神を漆黒な闇に染めてしまった。

少年の死は自業自得と考えればまだ逃げ道があった。しかし交通事故が直接の原因だとしても、看病疲れが淑子を死に追いやったことは明白だった。大好きだった母を自分のせいで死なせたことは、どう取り繕ってもとうてい許されないことだった。

絶望した由紀は精神的自殺をした。自分で心を死よりも深く暗い闇に沈めてしまった。

母の死を知ってから由紀の目からは光が消えた。なにを言ってもうつろに応えるだけで、目を開けていても生きてないのと同じだった。体に全く異常はないが、ほとんど植物状態になっていた。

淑子の愛に甘えてきた安弘に、淑子の代わりはとても出来なかった。由紀は内科病棟から精神科の閉鎖病棟に移された。

閉鎖病棟は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づいて、他者に危害を加えるか、自殺の恐れがある、など強制的な入院形態が必要とされる患者のためにある。

ほとんど植物状態で自発的に動くことのない由紀は開放病棟で十分だったが、淑子のような看護など出来ないとあきらめた安弘が世間体を気にして、由紀を見舞い患者から一切遮断することを強く希望したため、病院側も閉鎖病棟への移動を許可した。

アベンジャー由紀 (16)につづく
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アベンジャー由紀 (14)続く不幸

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アベンジャー由紀 (14)続く不幸

「好きだ、おまえが好きなんだ」
由紀にのしかかった少年が、オニのような形相で迫ってくる。

「や…」
少年のカラダ全体で抑え込まれた由紀はどうしようもなく、ただ迫ってくる少年から顔を背けて目尻から涙をこぼす。
「好きなんだよおっ」
逆光で陰になった険しい顔が押しつけられ、由紀の唇を強引に奪った。由紀は無表情に乱暴なだけのキスを受けていた。

「なんだよ、このっ、不感症女っ」
いつの間にか少年の肉茎に貫かれて、感覚がほとんどなくなった膣に挿入されていた。脱力した女体にのしかかって狂ったように腰を振る少年が、口汚く由紀を罵る。
「バカにしやがって、死ね、死ね、死ねえっ、うっ…」
由紀の首を思いっきり締めながら少年は罵る。目の前がだんだん暗くなった。少年は急にのけぞると由紀の中にドクドクと発射していた。

「もう…、死ぬしかない…」
その声に暗闇から引き戻された由紀が振り向くと、枝にぶら下げたロープに少年が首を突っ込んでいた。
「や、やめてっ、やだあっ」
由紀の叫びもむなしく、少年の脱力したカラダがロープにぶら下がり、静かに揺れていた。


「や、やあっ、やだあっ」
突然悲鳴を上げた由紀は、ベッドから起き上がり大声で泣きわめく。
「由紀、由紀っ、大丈夫よ、大丈夫だから」
悲しい泣き声を上げる由紀を、母の淑子が抱きしめて懸命になだめる。

あの少年の自殺を聞いてから、由紀は悪夢に悩まされ続けていた。

少しウトウトするとあの少年が現れて、あのときと同じ状況が繰り返される。そしてみずからの悲鳴で目を覚ました。

ろくに眠れない少女の体は徐々に衰弱していった。点滴につながれてベッドに横たわるやせた由紀の姿は、元気だった頃の明るい少女の片鱗など一切無く、ただ痛々しいだけだった。


そして一向に改善を見せない娘の病状は、それ以上に淑子の心と体もむしばんでいった。

ヘッドに寝ているだけの由紀に対して、淑子はつきっきりで看病しながら、夫の面倒を見て家事もしなければならない。

由紀の短い睡眠時間に合わせてウトウトするぐらいしか寝る時間のない淑子の疲労は、とっくに限界を超えていた。

あの事件から一月経った頃には、誰が見ても淑子の過労はあきらかだった。優しい母親の面影は見る影もなく、看病疲れで悲惨なほどやせ細っていた。

夫の安弘が疲れ切った淑子をなんとかしなければと考えていた矢先に、悲劇は起こった。

家事を済ませて急いで病院に向かう淑子は、交通事故に遭った。

淑子はただちに由紀と同じ病院に運び込まれ、適切な処置を受けた。しかし衰弱した体は長時間の手術に耐えきれず、医師たちの懸命の救命措置もむなしく絶命した。

病床の娘を置いていかなければならない無念の涙を一筋こぼした淑子が、最期につぶやいた言葉は
「由紀…、ごめんね…」
だった。

アベンジャー由紀 (15)につづく
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