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交渉人涼子 10話 (4)

裏ろま中男 作品リスト
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交渉人涼子 Negotiator Ryoko
10話 山田刑事刺傷事件 (4)

今、オペ中です…、血だまりに横たわる山田の姿が頭に浮かんだが、涼子にはそれ以上言う言葉がなかった。そうか、ホシは所轄が総出で探してる、これから笹野を行かせるから、それまで山田を頼むぞ、そう言って電話は切れた。ケータイを握りしめた涼子が顔を上げると星空が目に入った。東京の夜空はこんなにキレイだったのか、と涼子は不思議な気分でざわざわした気持ちが落ち着いてきた。不意に右から左に光のスジが流れた。山田を助けて、涼子は流れ星に願いを込めていた。

ERに戻るとまだオペは続いていた。山田の動かない体を見つめながら涼子は、必ず助かる、と何故だかわからないが自信を持っていた。涼子がオペを見守っていると笹野が、はあはあ、と息を切らしてやってきた。気が付くとオペが始まって1時間が経とうとしていた。どうなんだ、笹野のしわくちゃの顔が真剣な目で涼子を見上げた。まだ続いてます。涼子が山田から目を離さずに応えると、笹野も、そうか、と一言だけ応えた。

心配そうに笹野が涼子に目をやると、ナイスバディにぴったりとはりついたレザーのつなぎが血で汚れていた。いつもの笹野ならおしりを触るぐらいしているところだが、涼子、ケガしてるのか、と聞いた。えっ、あっ、…、これは山田の…、そのとき涼子の足がふらついて笹野に寄りかかった。おい、大丈夫か、笹野は涼子のカラダを支えて、ベンチに座らせた。はい、スイマセン、いつもの気丈な涼子らしくない言葉に笹野は笑顔を作って、山田なら心配ない、おまえの折檻を耐えたカラダは、この程度で、くたばったりしないさ、とおどけて言った。涼子も、はい、と笹野の優しい顔にかすかに笑顔を浮かべて応えた。

やがてオペは終了して山田は集中治療室(ICU)に運ばれた。執刀した若い外科医が説明に来た。傷は腎臓まで達していましたが、無事再建できました、出血量が多くて出血性ショックが心配されましたが、頑健な肉体をお持ちのようで、命に別状ありません、麻酔が覚めたらお話しできますよ、とニッコリと笑っていた。しわくちゃにした笹野の顔が、やっぱりな、と涼子に笑いかけていた。ありがとうございます、目を潤ませた涼子が深々とお辞儀をした。

じゃあ、オレは署に戻るから、山田の無事を確認して笹野は帰った。滅菌した白衣に着替えた涼子がベッドの横に座って山田の手の温かさを確かめていた。点滴や心電図はつながれたままだが、酸素マスクは取られて、山田のしっかりした吐息が涼子の耳に響いていた。それはやがてイビキに代わって涼子を苦笑させた。いつの間にか涼子は山田の手を握ったまま寝ていた。

…涼子先輩、山田の声に、はっとなった涼子が顔を上げると、顔を横に向けた山田が涼子に笑顔を向けていた。…、涼子は何も言えずにただ山田の笑顔を見ていたが、山田の顔がにじんではっきりしなくなってきた。涼子先輩が、助けてくれたんですね、ぼんやりした山田の顔に、うん、と涼子はただうなずいていた。涼子先輩の、怒鳴り声が聞こえました、と笑う山田の目も潤んでいた。しゃべりすぎよ、…、わずかに笑みを浮かべた涼子は山田の手をきつく握って顔を伏せた。涼子のきついグリップに胸が熱くなった山田は、涼子の肩が震えているのを潤んだ目で見つめていた。

交渉人涼子 10話 (5) につづく
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