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交渉人涼子2 6話 中年自殺未遂事件(6)

ろま中男3 作品リスト
交渉人涼子2 目次

交渉人涼子2 6話 中年自殺未遂事件
(6)切ない覚悟

「清水さん、もう、いいでしょ、やめましょう」
自殺しようとする父に母娘が心配するそぶりさえ見せず、赤の他人の愛が泣いて引き留めようとするのを見ていた涼子は、清水に落ち着いた声で話しかける。

「涼子さん、そんなんじゃ、ダメですっ、もっと心配してあげないと」
死のうとする清水を本心から心配して泣いているように見える愛が、冷静な涼子に意見する。
「いいのよ、清水さんは本気で死ぬつもりなんて、無いんだから」
泣きながら訴えるミニスカポリスに、美人刑事は端正な横顔に笑みを浮かべて応える。

「あの、美人な刑事さん、どういうコトですか?」
「うん、何言ってるか、わかんない」
一家の大黒柱が自殺しようとしてもほとんど取り乱さず、他人事のような家族は意味がわからずに不思議そうに聞く。

「ここはどこ?」
「わたしは、誰?…、えへっ」
「ん…」
「はいっ、ここは病院です」
涼子にいきなり話を振られた愛は慌てて涙をぬぐうと、「ここはどこ?」に続く下の句を応えてニコニコしていたが、涼子の冷たい視線を浴びて焦って質問に答える。

「病院の屋上から飛び降りて、自殺なんておかしいでしょ」
「あ、そうか…、病院だったら、飛び降りても、すぐに治療されて、助かっちゃうかも」

「清水さんが、他にも高いビルがあるのにわざわざ病院を選んだのは、死ぬつもりが無かったから」
「間違って落ちても、病院なら助かる可能性が高い、と思ったからよ」
緊張気味に答えた愛に小さくうなずいた涼子が狂言自殺である理由を説明すると、愛が納得したようにウンウンとうなずく。

「愛、自殺による保険金支払いについての免責は?」
涼子は清水が口にした自殺理由について愛に振った。

「あ、はいっ、商法第680条第1号で『被保険者ガ自殺、決闘其他ノ犯罪又ハ死刑ノ執行ニ因リテ死亡シタルトキ』保険金の支払いは免責されるとあり、この法律に従う限り自殺による保険金支払いの義務はありません」

「ただ保険会社は約款で自殺による免責期間を1~3年程度に設定しているため、免責期間後の自殺には保険金が支払われるという俗説が流布しています」

「しかし免責期間後の保険金支払い義務は、『精神障害や心神喪失中の場合』における自死に適用されるというのが基本的な考え方であり、保険金目当てという公序良俗に反する目的のために自殺した場合は、支払い義務はないという判例が過去何度も出ています」

見かけによらず法知識が豊富なミニスカポリスに、保険金が支払われない理由を説明させながら、涼子は切れ長の目で目配せした。

「あっ」
「もう、飛び降りできませんよ、涼子さん、確保しました」
清水が説明に気を取られている間に屋上のヘリを伝って接近した山田が、涼子の合図とともに飛びかかり清水を取り押さえた。


「誤解があったようですけど、清水さんが自殺しても、私たちは自殺が保険金目的だと証言しますから、保険金の支払いはありません」
警官たちに連れてこられてうなだれる清水に、涼子は諭すように話しかける。

「刑事さんが黙っててくれれば、保険金は下りるってこと?」
「じゃあ、刑事さん、黙ってて、お願い」
清水が確保されて自殺の心配が無くなった今でも、保険金に目がくらんだ母娘は家族の愛情のカケラさえ感じないタワゴトをほざいていた。

「涼子さん、私わかりました、清水さんは『ダメおやじ』だったんですね」
「愛ちゃん…、それって清水さんに失礼だよ」
狂言自殺説の理由がわかった愛が、昭和のアニメを持ち出してうれしそうにニコニコしていると、そんな昔のアニメなど知らない山田は、『ダメおやじ』が自殺を思いつめた中年を侮辱する言葉だと感じて、渋い顔でたしなめようとする。

「山田、いいから、愛、続けて」
「はいっ、ダメおやじはオニババに毎日イジメられてましたけど、ダメおやじはオニババを愛していたし、実はオニババもダメおやじを愛してたんです」
涼子が山田をさえぎると嬉しそうに笑った愛が説明する。山田はまだ意味がわからずに涼子と愛の顔を交互に見ていた。

「そうね、清水さんは家で妻と娘から虐げられていたけど、それはふがいない自分に対する励ましだと思っていた」
「本当は家族から愛されていると信じたかった、それを確かめるために狂言自殺を思いついたんですね」
続きを引き取った涼子は、清水の狂言自殺の真相を説明する。

「そうです…、すいませんでした」
うなだれて膝をついた清水は、絞り出すようにつぶやく。
「でも、リストラされた自分が自殺すれば、家族に保険金が残せると思ったのは本当です」
そして本気で死ぬつもりだったことも吐露した。
「家族に愛されていると、わかったら…、それに応えるためにも…、死ぬつもりでした」
肩を震わせてうなだれる清水は、コンクリートの地面にポタポタと涙の跡を作っていた。

「もうわかったでしょ…、それに自殺しても、保険金は下りないわ」
「あなたは自分の幸せを、もっと考えた方がいい」
リストラで追い詰められ、それでも家族の幸せを考えた中年男性の悲哀に、どうしようもない想いがこみあげてくる。しかしそれを顔に出さないように毅然とした態度を保った涼子は、清水が二度と自殺しようという考えを起こさないよう願って声をかけた。

死を賭した父の想いにうちのめされたのか、母娘は口をつぐんでうなだれていた。


「お父さんが寝たきりになっても、ちゃんと面倒見るからね」
家族全員が揃った夕餉の席で涼子は清水の父親としての悲痛な覚悟を思いだすと、茉莉をあやす泰造を優しく見つめた。
「…、たかいたかい、お父さんは寝たきりになるような、ヤワな鍛え方をしとらんぞ」
早期退職して悠々自適の父は愛娘のセリフに戸惑ったが、高々と持ち上げた初孫のカワイイ笑顔に相好を崩すと、腕まくりして力こぶを自慢していた。

「涼子さんには、オレのシモの世話をお願いします」
「耕太さん…」
涼子の折檻にびくともしない肉体を誇る入り婿は、泰造の言を借りればとても寝たきりになりそうにない。老後よりもっと近い今夜を妄想してニヤける山田に涼子は苦笑したが、泰造と喜久恵は二人目の孫を期待して、山田を頼もしそうに見て笑っていた。

交渉人涼子2 6話 中年自殺未遂事件 終わり
交渉人涼子2 7話(1) につづく
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