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== 交渉人涼子2 ==

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件(8)

ろま中男3 作品リスト
交渉人涼子2 目次

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件
(8)オレと…

「立て…」
犯人を抑え込んで後ろ手に手錠をかけた山田に、涼子が冷たい視線を向ける。

「バカども、だと…」
手錠で拘束された犯人が向けるふてぶてしく憎々しげな眼光で、バカ扱いされて無差別に凶刃を突き立てられた犠牲者の恐怖や苦痛の叫びが生々しく鼓膜に響き、脳裏に戦場のような陰惨な犯行現場が蘇る。

美人刑事の美しい肢体が怒りで瞬間沸騰し、黒髪ロングヘアの先まで激高してなびく。

「ふざけるなっ」
小バカにしたような視線を向ける犯人を、涼子は怒りに燃えた瞳で真っ向からにらみつけて一喝する。

「おまえのどこがエリートだっ、おまえは人間以下の虫ケラだっ」
「ぐえっ」
山田に引き上げられた犯人のみぞおちにロングブーツのヒザが食い込む。詰め物をされた口から苦しそうなこもったうめき声が漏れる。

「ゲス野郎っ、痛みを知れっ」
「ううっ、げっ、ぐおっ」
反対の足がまたみぞおちに食い込んで、目のまわりを涙でビショビショにした犯人は苦しそうに前屈みになる。

「この百倍千倍の痛みだっ」
「うげっ、ごっ…」
何人もの善良な人たちを理由もなく傷つけたエリート気取りの勘違い野郎に、やり場のない怒りにかられた美人刑事は、犯人を気絶させないようにいつもの頭へのまわし蹴りを無意識に封印し、ボディ攻撃を続けた。

「涼子さん、もうこれ以上は…」
執拗なストマック攻撃を受けて、犯人は口に詰め物をされたまま胃の内容物を逆流させた。吐瀉物で喉をつまらせた犯人が床に倒れてのたうち苦しむ姿を見て、やっと山田は涼子を止めた。

「やだあ、きたな?い」
「ひっ…、えっ、げっ、うっ、げっ」
はだけた胸を片手ブラで押さえた愛は、ムッチリした超マイクロミニの下半身を折りたたんでしゃがむと、悶絶する犯人から詰め物を指先でつまみ出し、犯人は咳き込みながらゲロを吐き出す。

「山田っ」
ゼーゼーと苦しそうに息継ぎする犯人に舌を噛んで自決する気力はなさそうだったが、涼子はもう一度山田に猿轡を指示する。山田は床に落ちていた肩ひもを切られたブラを犯人の口に詰め込む。

「やだあっ、変態っ」
さっきまで胸に付けていた下着を口に含む苦しそうな犯人を横目でチラ見した愛は、思いの外うれしそうに笑っていた。



涼子の私的制裁を見て見ぬふりをしていた恩田警部は頃合いと見て警官隊を突入させ、犯人に猿轡と拘束具を着せて所轄署まで連行した。愛のブラが犯人の口に押し込まれたままだったのは言うまでもない。

救急隊や消防庁から派遣されたDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)ら医師たちの、懸命の治療の甲斐もなく重傷被害者の半数は意識を取り戻すことはなかった。



「あっ、あああっ…」
ベッドの横で悲痛な泣き声を上げる母ちゃんをオレは天井のあたりから眺めていた。ベッドのまわりにはガキの頃から知ってる顔が並んでいる。

「この子は、ひっ…、男に、ううっ…、なって、ひっ…、いたんで、ううっ、しょうか?…」
母ちゃんが、泣いてる…、何言ってんだ、やめろよ…。
母ちゃんが泣きながら、うつむいてまわりを囲む友人たちにすがりつき、問いかける。

「特別な、うっ…、女の人は、ううっ…、いたんで、ひっ…、しょうか?…」
胸をえぐられるような悲痛な泣き声が静かな病室に響く。

女って?…、そういうこと!?…、恥ずかしいだろ、やめてくれよ…。
母ちゃんの気にしていることが、オレが童貞かそれとも親しい女性がいるかどうかだとわかって、集まった友達に、こっぱずかしくていたたまれなかったが、
え、オレか?…。
顔に布をかけられてベッドに横たわるカラダがオレだと気付いて、霊魂になって母ちゃんを見下ろしているのだとわかった。

オレ、童貞のまま、死ぬのか!?…、そんなのイヤだっ、…。
経験しないままあの世に行くなんて、死んでも死にきれないとはこのことだ。オレは焦りまくった。


「童貞のまま、死にたくないっ」
そんなの、絶対にイヤだあっ…、へ…、あれ、夢?…。
オレは自分の寝言で目が覚めた。半ベソをかいたオレは白い天井を見ていた。

「くすっ…」
カワイイ笑い声がして、そっちに目を向けると車いすに座った女の人がいた。
「よかった、意識が戻って」
手足のギブスに巻かれた白い包帯が痛々しいが、その女の人が蒼井優似の彼女だとすぐにわかった。

「あの?…」
カワイイ笑顔を見せる彼女の頬には、涙の乾いた跡があった。

「ここ、病院です、助けてくれて、ありがとう」
ナースコールを押した彼女は車にはね飛ばされたときのように、包帯を巻いた手でオレの手を握った。あのときの恐怖はもちろんなく、その手の温かさがやけに嬉しくて、オレはきっとニヤけていたに違いない。

「恐かったでしょ…、それなのに…、かっこよかった」
しっかり見られてたよおっ、みっともねえっ…、え…、まあ、いいか、…。
通り魔を目の前にしてビビリまくったオレを、彼女はずっと見ていたのだと思うと、恥ずかしい汗が全身から出てくる気がするが、「かっこよかった」の一言でそんなのは吹き飛んでいた。

「あ、あのっ…、オレ、さっき、なんか言った?」
あ、やっべえっ、聞かれたか?…。
恥ずかしい寝言を思いだしたオレは、つい彼女に聞いていた。
「え?…、うふふっ…」
恥ずかしそうに顔を伏せた彼女はただ笑うだけで応えてくれなかったが、オレの手をギュッと握ってきた。その温かくて柔らかい感触が気持ちよくて嬉しかった。


オレは今、車いすの美少女とつきあっている。あの通り魔は精神鑑定で責任能力ありと判断されて、殺人罪など諸々の罪で起訴されたとのことだ。裁判で責任能力さえ認められれば死刑は確実らしい。

オレの目下の夢は、もうじきギブスの取れる彼女と散歩して、並んで歩くことだ。

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件 終わり
交渉人涼子2 6話(1) につづく
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