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== 交渉人涼子2 ==

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件(6)

ろま中男3 作品リスト
交渉人涼子2 目次

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件
(6)エリート人生の顛末

「オレは建築科に進んで、将来は一流の建築士を目指してた、あの頃が一番充実した人生だった」
相変わらずゆがんだ笑みを浮かべる犯人は、充実した大学生活が懐かしそうだった。

「エリートであるあなたを迫害するバカもいなかったでしょうしね」
「そうだ、オレにふさわしいエリートとも出会った」
イジメから開放されて大学生活を満喫しただろう犯人に涼子が問いかけると、自慢気な声が応える。大学時代には友人もいたようだ。

「あなたに匹敵するエリートと出会ったわけね、その人とはどうしたの?」
友人がいるなら、そこを突破口に出来ると期待した涼子だったが、
「…、うるさいっ、エリートは孤高なんだっ」
男はいきなり怒り出した。
「ひっ、う、うう…」
血糊の付いたナイフが首に触れて人質女性が悲鳴を上げたが、慌てて口を覆った。

「そうね、エリートは崇高な目的のために孤独なのね」
人質を気遣って、涼子がすかさずフォローする。
「そうだ、オレが悪いんじゃないっ、アイツがオレを理解出来なかっただけだ」
友人とはケンカ別れをしたのだろう。犯罪傾向のある自信家にありがちな、自らの過ちを認めようとしない態度がありありと見えた。


自分が悪い人間だと思いたくないという自己正当化はほとんど本能に近いもので、間違いを犯したと思いたくないのは誰にでもあることだ。

自らの間違いを認めることは心に傷を負うことで、その間違いが大きければ大きいほど、心は深く傷つき、その傷の深さに人は立ち直れなくなるかも知れない。

間違いを認めることはどMな自傷行為だと言える。だから自分を守るために人は本能的に間違いを認めようとしない。

普通の人間は本能的に痛みを回避しようとする気持ちと、良心の呵責との板挟みになって苦しむ。

しかし意図的に犯罪を起こす人間は、自らの過ちを認めずに常に責任を他者に押しつけ、心の痛みを避ける傾向が非常に強い。

犯人はその典型だと思われた。本能に忠実で痛みを感じてこなかった人間は、他者の痛みがわからずに他者を傷つけるコトにためらいを感じない。


「そうして孤高を保ったあなたは、大学も立派に卒業したのね」
犯人の性向がだいたいつかめた涼子は、話を先に進める。
「そうだ、一流の建築会社に就職したオレは、一級建築士の資格を取るとすぐに独立した」
ここでも利己的な性格を暴露した男は、会社をうまく利用したことが自慢なのかゆがんだ笑いを見せる。男の性格では会社生活になじめずに、独立を前提に就職したことも想像される。

「オレの人生は順風満帆で、栄光に満ちたものになるはずだったのに…」
そこで犯人の表情が険しくなった。
「バカどもは、オレの素晴らしい建築デザインが、理解出来ないんだっ」
「いやっ、助けてっ」
ブルブルと震える犯人は人質にナイフを押しつけながら、社会から認められなかった不遇を嘆き、社会に責任を押しつけた。

通常独立した建築士は建築会社社員にプロデュースを任せて、依頼主との調整をしてもらう。自信過剰な犯人はプロデュースも自分でしたのか、あるいは自分のデザインを絶対と信じる犯人は依頼主からのデザイン変更要望が許せずに拒絶してきたのか、どちらにしても依頼主と折り合いを付けることが出来ず、商売的には大失敗したのだろう。

「そうね、偉大な理想は、バカどもにはわからないものね」
男が犯行に及んだ経緯はだいたいわかった。

独立に失敗した犯人は債権者に財産を差し押さえられて、すべてを無くしたのだろう。エリートを自負する犯人が、社会の最底辺にいるホームレスと同じような生活をする屈辱に耐えられないのは、容易に想像できる。

屈辱は攻撃的な怒りに変わり、無差別殺傷事件に及んだ。

「だから、オレはバカどもに、オレを迫害した罪を思い知らせてやることにした」
怒りをあらわにした犯人はナイフを握りしめて、今にも人質に突き立てようとしていた。
「ひっ…」
両手で口を押さえた女性は首に食い込む冷たいヌルッとした感触にのけぞると、恐怖に耐えきれずついに気絶した。スカートのスソが乱れたナマ足の間からかすかに湯気が上がって、失禁したことを示していた。

人質の意識が無くなったのは好都合だった。意識があると救出の際混乱した人質が暴れて、邪魔になるからだ。

「あら、人質、オシッコしちゃったわね、エリートのあなたにそんなキタナイ娘、似合わないわよ(脱ぎなさい)」
激高する犯人よりも、人質の状況が好転したことに意を強くした涼子は強行突入を決意した。暇そうな愛をチラ見した涼子は、犯人を警戒させなように防弾チョッキを脱ぐように指示した。
「なんだ」
人質の失禁に気付いた犯人は、汚いモノを見るような目で女性をチラ見してから、涼子に聞く。

「これよ、へ…」
お色気担当、いくのよ…、は?…、なんでそこまで、…。
人質の代わりに愛を差し出そうとした涼子は、
「えへへっ」
防弾チョッキどころかシャツまで脱いで超マイクロミニとブラだけになり、恥ずかしそうに笑う愛にあきれてズッコケるところだった。忠犬のごとく涼子の後ろの控えた山田は、愛のはしたない姿をローアングルから見上げて、デレデレして鼻の下を伸ばしていた。

交渉人涼子2 5話(7) につづく
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