2ntブログ

== 交渉人涼子2 ==

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件(5)

ろま中男3 作品リスト
交渉人涼子2 目次

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件
(5)交渉開始

「それ以上近寄るな、女を殺すぞ」
商品棚を隔てて犯人と人質女性を確認出来る位置まで近づいたところで、犯人の甲高い声が響いた。しっかりしたその声は神経質そうな感じはあるが、精神異常者というより、自信過剰なうぬぼれが混じっているように感じた。

「わかった…、話をしましょう、なんでこんなことしたの?」
障害物に隔たれたこの位置では犯人を取り押さえようとしても、その前に人質が刺されるのは目に見えている。とりあえず犯人の精神状態を確認しようと涼子は落ち着いた声で話しかけた。

山田、…。
後ろに控える山田と愛に、姿勢を低くしておとなしくしているように目配せすると、
はい、…。
アイコンタクトを瞬時に理解した山田が忠犬のごとくしゃがみ込み、
あ、そうか、…。
愛も山田にならって超マイクロミニの足を内マタに畳んでしゃがみ込んだ。

「オレの偉大さをバカどもに教えるためだ」
笑いを含んだ声が応える。20代くらいに見える若い男は唇のハシを上げて、皮肉っぽい笑いを浮かべていた。

「偉大というのは?」
誇大妄想か?…。
自信家という勘はあたっていた。統合失調症かもしれないが、精神を病んでいるかどうかより人質に危害を加えさせないことが重要だった。

人質は男の楯にされて全身をさらしていた。10代後半から20代前半くらいの若い女性は、後ろから首にナイフを突きつけられて、短めなスカートスソが乱れてナマ太ももが震えている。

頬を伝う涙の跡が痛々しい。ただ過呼吸など極度に追い詰められた危険な兆候はなさそうで、涼子は少し安心した。

「オレはエリートなんだ、バカどもを支配するべく、生まれたんだ」
相変わらず犯人は不気味な笑いを浮かべている。
「エリートってことは、子供の頃から頭が良かったのね」
うかつに手を出せない状況で、涼子は犯人の心理状態を確認するために話を続けた。

「そうだオレは小学校で常に成績トップだった」
感情を抑えた女刑事の声に応えて、犯人は自慢気に少年時代から語りはじめた。
「中学校で体育が悪かったが、アイツがわざと悪い点を付けたからだ」
そこまで言って、唇のハシが神経質そうに震えた。

ナイフを突きつけられた人質女性は怯えて顔色が真っ青になっているが、まだしばらくは持ちこたえられそうだ。

「アイツとは?」
体育の成績は犯人の逆恨みだと思うが、もちろんそんなことは口に出さない。
「体育の野田だ、あの筋肉バカ教師、オレがエリートなのを妬んでやがった」
「イヤガラセされたわけね」
「そうだ、でもあの頃のオレはまだ自分の偉大さに気付いてなかったから、見逃してやったけどな」
話を合わせる涼子に、犯人は愉快そうに笑ったが、若干引きつって見える。ただ自信過剰ではあるが受け答えに支離滅裂な所はなく、思ったよりまともな状態だ。

「学級委員とかしてたの?」
優等生ならクラス委員を経験してそうで、そうなら協調性が期待できる。
「そんなモンするか、あれは雑用係だ」
犯人は即座に否定した。他人のために奉仕する気持ちがまったくない利己的な少年だったことを想像させた。

「オレは地元で一番のエリート高校に進学しても、やっぱりエリートだった」
「そう、すごいのね」
「そうだ、オレはスゴイ人間だ、なのにソレを認めようとしないバカどもが…」
そこで犯人の顔が醜くゆがんだ。悲惨な過去に興奮して憤っているように見える。

イジメね…。
犯人の暗い過去はすぐ思い当たった。勉強ばかりしていて協調性もなく利己的な少年が、イジメのターゲットになったことは容易に想像できる。
「でも、あなたはそんなバカどもの迫害を、エリートとして耐えた」
「そうだっ、バカだからくだらないイジメでオレを冒涜して、なけなしの自負心を満たそうとする」
甲高い大声を上げた犯人に怯えた女性は
「ひっ、助けてっ」
泣き声混じりの悲鳴を上げる。

「うるさいっ、黙ってろ、殺すぞ」
「うっ、うう…」
脅し文句に震え上がった人質女性は、口をつぐんで嗚咽を飲み込み、かすかに肩を揺らす。

ダメだ、…。
人質の危機に山田が動きそうな気配を見せたが、チラ見した涼子の厳しい視線に何とか押さえた。
へ…、アンタは…、まあいいわ、…。
愛の様子をうかがうと手持ちぶさたに枝毛を探していた。緊迫した現場でもお気楽な婦警に気合いが抜けそうになったが、静かにしていてくれればいいと涼子は考え直した。

「バカどもの迫害をモノともせずに、あなたはきっと一流大学に受かったんでしょうね」
少なくとも人質が凶刃を受けなかったコトにホッと息を吐いた涼子は、落ち着いたお世辞めいたセリフで犯人をなだめようとする。
「そうだ、オレにふさわしいのは最低でも旧帝大だからな、九大に合格した」
犯人はまた自慢気にゆがんだ顔で笑った。

「やっぱりすごいのね」
お追従するセリフで応えた涼子だった。ただ旧帝大でも東大のような超一流大学にくらべると若干落ちるのが微妙だ。あるいはそのあたりもコンプレックスとして深層心理に根ざしているのかもしれない。

交渉人涼子2 5話(6) につづく
ブログランキング ケータイの方はこちらから
ブログランキングバナー1日1クリックご協力をよろしくお願いします。
関連記事

┃ テーマ:自作長編官能恋愛小説 ━ ジャンル:アダルト

┗ Comment:0 ━ Trackback:0 ━ 10:41:30 ━ Page top ━…‥・

== Comment ==






        
 

== Trackback ==

http://aosaga9.blog.2nt.com/tb.php/1886-7d9bf68d
 
Prev « ┃ Top ┃ » Next