ろま中男3 作品リスト交渉人涼子2 目次交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件
(3)現場到着
「○○通りで通り魔だ、女性を人質にして立て籠もった」
きりっとした表情を見せる涼子に、佐々木課長が短く説明する。
「わかりました、現場に急行します」
デスクワークで溜まったウップンを振り払うかのように、涼子がきびすを返すと
「通り魔は、自殺志願者のようなモノだ、くれぐれも刺激しないように頼むぞ」
課長が、無差別殺傷を起こす通り魔は最後には自殺することが多いのを、涼子の背中に念押する。
「はい、気をつけます」
モデル並みのカラダをよじってセクシーな見返り姿を見せた涼子は、心配よりも信頼のこもった眼差しを向ける課長にうなずき、駐車場に向かった。
「今日は負けませんよ」
ミニスカポリスがニコニコしてついてくる。前回の事件で涼子のYAMAHA YZF-6Rにチギられた愛は、今日こそは置いていかれないぞと、ヤル気満々だった。
緊張感が…。
事件とは関係ない勝負に燃えるお気楽婦警の楽しそうな様子に、気合いをそがれて小さく嘆息した涼子に
「待ってください」
覆面パトのキーを取りに行っていた山田も、追いかけてきた。
「あ…、バイク、ですか…」
タンデムシートの恐ろしさが身に沁みている相棒刑事は、大人の色気を漂わせる脚線美のブーツが弧を描いて、シルバーの車体にまたがるのを怖じけて見ていた。
「いいわよ、あなたは車で…」
フン、と擬音がしそうな笑みを浮かべた涼子に
「いえっ、お供しますっ」
公私ともに涼子にベタ惚れの山田は、ゴクンとツバを飲み込むと決死の思いで狭いダンデムシートにまたがって、ヘルメットに頭を押し込んだ。
ドルンッ…。
グローブをしたしなやかな指先がイグニッションをONすると、静かに眠っていたYZF-6Rが低いうなり声を上げる。
「はあっ」
低い震動で女体を震わされた涼子はセクシーな溜息を漏らすと、ローにギアを入れる。大人ふたりを乗せた銀色の車体ははじき出されるように、駐車場から公道に飛び出した。
クオオッ、クオックオッ
ファインチューンされた599ccインライン4 DOHC16バルブエンジンはMAX130馬力近い出力を誇る。ローギアで瞬時にレッドゾーンに達したタコメーターは、ギアチェンジするごとに10,000rpmの頂上付近を左右に揺れて快調なエンジンの回転数を伝える。
ああっ、…。
タンクに上体を伏せて浮き上がろうとする前輪を抑え込む涼子は、全身で心地よい震動を受けて、ヘルメットの中で艶めかしい吐息を漏らす。
「ああんっ、まってえ」
YZF-6Rの1/10の馬力しかないノーマルAddress 125Gに超マイクロミニのナマ足を揃えた愛が、おいてかれまいと懸命にピンクヘルメットの頭を伏せて追っていく。
「ひっ、ひいいっ…、じぬうっ」
休日の一般道はトラックなどの大型車両も少なく、割と空いていた。前傾姿勢を取る涼子に必死にしがみついた山田は、置き石のような一般車両をヒラリヒラリとかわして追い抜く、一般道ではあり得ない超高速ライディングに、泣き声混じりの悲鳴を上げていた。
「やあんっ、もう…」
混雑した道路状況なら、Address 125Gの軽く小さい車体の利点を生かしていい勝負になるが、ある程度クリアラインが取れるのなら、潜在能力を発揮するYZF-6Rに全くかなわない。
「涼子さん、まってえっ」
涼子と恐怖のどん底にある相棒を乗せた銀色の車体はあっという間に見えなくなった。
「ああんっ、え…」
もう、買い換えちゃうぞっ、あ…。
アクセルをめいっぱい握ってもまったく勝負にならない。癇癪気味に愛がもっとパワーのあるバイクに買い換えようかと思った瞬間、Address 125Gはエンストした。
「うそっ、うそだから、アドレス、走ってえっ」
焦ってセルスイッチを押すと、すぐにエンジンはかかった。
ごめん…、浮気なんてしないから、許して、…。
ピンクヘルメットのミニスカポリスは愛車に詫びながら、法定速度を無視して涼子の後を追った。
「ついたわ、降りて」
現場に到着した涼子は、しがみついて震える山田に声をかける。
「神様…、ありがとう…」
半ベソをかいた山田は、生きたままバイクから降りられる幸運を神に感謝していた。
敬礼する制服警官にバイクを見ているように頼んだ涼子は、まぶしそうに細めた目でゆっくりとあたりを見渡した。
…、ひどい…。
現場は救急車やパトカーが無造作に停められて、被害者の悲鳴や走り回る救急隊員の阿鼻叫喚でさながら戦場のようだった。ケータイを手にかざした野次馬たちでごった返す人混みをかき分けた涼子は、封鎖された車道に血溜まりを複数確認した。
これか、…。
犯人が突入に使用した車は、前面の数カ所にへこみを見せて、フロントグラスに複数の衝突痕のひび割れを示している。
「涼子さん、鬼速(オニッパヤ)ですね…、え…」
ようやく到着した愛がヘルメットを取りながらお気楽に笑って、涼子のライディングをはやし立てたが、現場の悲惨さに表情をこわばらせて口をつぐんだ。
「こんなこと…、ゆるせない」
ようやく正気に戻った山田も、通り魔の凶行のあとを目の当たりにして、にこらえきれない憤りを口にする。
「人質の安全最優先、犯人を絶対に刺激しない…、行くわよ」
常軌を逸した残虐な殺戮を行った犯人に怒りを燃やした涼子は、同時に破滅的な精神状態にある犯人との交渉の困難さを再認識して、気合いの入った声をかける。
「はいっ」
山田と愛は同じ気持ちで同時に応えた。
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