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== 交渉人涼子2 ==

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件(1)

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交渉人涼子2 目次

交渉人涼子2 5話 無差別殺傷事件
(1)茫然

その日は天気のいい休日だった。

特に何を買うという目的もなく繁華街に出掛けた。強いて理由を挙げるとしたら、ひとりでいるのが寂しくて人混みに紛れたかったのかも知れない。

しかし来てすぐに後悔した。見るつもりはなくても楽しそうなカップルが目に入って、独り身のわびしさが身に沁みる。

なにしてんだ、オレ…、そうだ…。
ひとりで落ち込んでいてもしょうがないので、ガールズウォッチングを楽しむことにした。

見るだけなら、かまわないよな…、女の子だって、見られてキレイになる、って言うし…。
オレは人混みを歩きながら、ナンパするでもなくただ女の子を見るだけの自分の情けなさを正当化していた。

う~ん…、色とりどりというか、百花繚乱?…。
「女性の美しさは都市の美しさ」ってCMのコピーが昔あったけど、休日に街を歩く女の人は着飾ったキレイな人が多い。こんな目の保養がタダで楽しめるなんて、大都市に住んでいる役得なのかも知れない。

お…、あの子、カワイイじゃん…。
信号待ちする人だかりに20代前半くらいのカワイイ女性を見つけた。

ただ女の子の年齢当てに全く自信は無いので、ひょっとしたら10代かもしれないし、20代後半かもしれない。

いいなあ、…。
そんなことはどうでもいい。肩ムキ出しのキャミ姿はエッチな感じではなく健康的な感じで、モデルとまでは言わないが、スタイルもいい。

なにより顔がオレ好みだ。細面な感じだがやせた感じではなく、蒼井優にちょっと似ている。本人も意識して蒼井優似に化粧やヘアメイクしてるのかも知れない。

あんな娘が、彼女だったら、…。
どうやら彼女はひとりらしいので、オレはあらぬ妄想を浮かべて楽しくなっていた。

歩行者信号が進めに変わって彼女が歩き出す。

かわいいなあ、…。
ハイヒールだかパンプスなんだかよくわからないが、リボンの付いたカワイイ靴が一歩ずつ前に進む姿に、オレは見とれていた。

おっと、やばい、やばい…。
オレはきっとだらしなく顔を緩めていたに違いない。ひとりでニヤニヤ笑う不気味な自分の情けなさを自覚して、オレは表情を引き締めて歩き出した。

ゴドンドッ…。
その時だった。目の前に突入してきた車が、前を歩く人たちをなぎ倒した。鈍い重そうな音がした。彼女も車にはね飛ばされた。

え…。
実際には一瞬の出来事だったと思うが、体勢を崩した彼女がまるで人形のようにはね飛ばされるのが、スローモーションのようにゆっくり見えた。

すぐに車は止まってドアを開けて誰かが出てきたが、オレは車道に倒れた彼女を茫然と見ていた。

あ…。
グッタリと道に横たわった彼女がゆっくり顔を上げる。その顔はやはり人形のように表情がなかった。

ひっ、…。
が、目が合ってオレは背筋が凍るような恐怖を覚えた。

ああっ、…。
その目はオレに助けを求めていた。唇がかすかに震えて助けてと言っていると感じたが、鼓動が耳の中でうるさく響いて何も聞こえない。

うわあ…。
オレを見つめる彼女の顔が急に大きくなった。走りだした自分に気付いた頃には、震える手を伸ばす彼女の前にしゃがんでいた。

「大丈夫?」
大丈夫じゃないに決まっているが、そんなありきたりな言葉しか出てこない。オレは何も出来ずに、震えながら顔を上げてかすかに唇を震わせる彼女をただ見ていた。

え…。
何も出来ずに手をこまねいていると、彼女の目は左上を見てビックリしたように大きく見開いた。

え…、なに?…、ええっ…。
オレもつられて顔を向けた。両手を振り上げた男が、道に倒れた人に馬乗りになっていた。その手にナイフが握られているのがわかったのは、男が両手を振り下ろし、倒れた人の胸に刺さったナイフを抜き出したときだった。

交渉人涼子2 5話(2) につづく
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