ろま中男3 作品リスト真央 目次真央 (70)刺す
「真央ちゃん、好きだよ」
男は体を起こすとヒザをすりながらにじり寄って、だんだん真央に迫ってくる。真央は尻もちをついたまま懸命に逃げる。
「やだっ、近寄らないで…、こないで」
ミニスカのスソを乱して足をバタバタさせる真央は半ベソの目で段々大きくなる男の影に恐怖していた。上体を支える手にカバンが当たる。真央はカバンで隠すように胸に押し当てて抱える。
「どうしたんだい?…、さっきまであんなに気持ちよさそうに、してたじゃないか」
男の不思議そうな声が見知らぬ他人の声のように耳に響く。ついさっきまでカラダを絡み合わせて熱く昂ぶった気持ちに浸っていた自分はもういなかった。ただ男に目の前から消えて欲しかった。
「こ、ないで、こないで…、さ、す…、刺すわよ」
カバンの中に鈍い光を見た真央は何かわからずに取りだして構えた。先のとがったハサミが男に向かって突き出される。涙でにじんだ目でそれがハサミだと見た真央は、切羽詰まった精一杯の脅し文句を口走る。
「あぶないよ…、そんなモノ、しまって」
自分に向けられる尖った先端になんの恐怖も感じてないような落ち着いた声がして、男は真央の下半身にのしかかってくる。
「やだっ、来ないでっ」
陰になった男の顔に鈍い眼光を見た真央は思わず両手をつきだしていた。肋骨に当たる硬い感触があったが、震える手に力を込めて押しつけているとスルリと男に胸に入り込む。
「ひっ」
その頼りない感触に思わず手を引くと、ビシュと風を切り裂くような音がして真っ赤な鮮血が飛び散り、生温かいしずくが真央の無表情な顔に赤いまだら模様を作る。
「う…、ぐうう…」
男の影がかすかに揺れると血の気の失せた唇が力なく開いて、地獄の底から響くような低いうめき声が漏れる。
「いっ、いやっ…、や、やあっ」
顔に垂れた血がすぐに冷たくなる。男の不気味な声で真央の精神は崩壊寸前だった。ハサミを投げ出して顔をぬぐった真央は、深紅に染まった指先に悲鳴を上げて男から逃げようとする。
「ま、っで…、ま、お…、ちゃ、ん」
ぼんやり開いた口から真央を呼ぶ低いこもった声がする。鈍い眼光が真央を見つめていた。
「ひいっ、いやっ、いやっ、たすけてっ、だれかっ」
闇に鈍く光る目にぼんやり見つめられてパニックになった真央は、壁際までたどり着くと壁沿いに部屋の隅まで逃げる。
「まお、ちゃ、ん…、す、き、だよ…」
ゆっくりと立ち上がった男がギクシャクした動きで少しずつ近寄ってくる。
「いっ、やっ、だ、だれかっ、やだあっ」
逃げ場の無くなくなった真央は涙を一杯溜めた目で男を見つめる。足がガクガク震えて背中に壁がなかったらその場にしゃがみ込んでいたハズだが、自分から座り込むことも出来ない真央は、かろうじて保った精神の糸が切れる直前まで追い込まれていた。
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