ろま中男3 作品リスト真央 目次真央 (54)プリティ・ウーマン
どこまであるの?…、お屋敷、豪邸?…。
V型12気筒のエンジンが発生させる低い震動でカラダを刺激される真央は、どこまでも続く塀に沢村家?の広大さを想像していた。
赤いスポーツカーが郊外の田園風景を疾走する。窓の外を走り去る緑をぼんやり見る真央は、レゲエおじさんたちに襲われたのはまだ都内のはずれだったはずで、あそこからここまでどうやって来たのか不審に思ったが、答えはどうせ出ないのですぐに考えるのをやめた。
しばらくすると高速に乗った。F1の流れをくむスポーツカーは水を得た魚のようになめらかなエンジン音を響かせて、法定速度を守るファミリーカーやトラックをスイスイ追い越していく。走り屋っぽい車も超がつく高級外車との面倒を嫌ってか、あっさり道を譲る。
しなやかな本皮シートにつつまれてゆったりと身を沈める真央は、全身を覆うエンジンの振動で無意識にカラダの奥に秘めた気持ちを熱くする。ドライビングに集中する沢村に物足りなさを感じた真央は、イタズラ心を出してわざとらしく足を組んでナマ足を見せつけた。
「あ、もうすぐつくから」
そんな真央をはぐらかすように沢村の無表情な声がする。真央は扇情的な振る舞いが急に恥ずかしくなってきちんと足を揃えた。そして沢村の言う通りに車は高速を降りて繁華街の地下駐車場に滑り込んだ。
まだコートドレスの短いスソを気にして手で押さえる真央は、車から降りると沢村に手を引かれるままブランドショップに連れて行かれた。
シャネル、プラダ、ミュウミュウ、カルバン・クライン、ダナ・キャラン、クリスティーナ・ティー、ヴィトン、グッチ、コーチ、フェラガモ、カルティエ、ブルガリ、ベルサス・ベルサーチ。真央は全部憶えていないがこれだけのブランドメゾンに連れて行かれ、沢村はスーパーで大根を買うような気軽さで、貧乏学生には縁の無かった高価な衣装やアクセサリーを買い与えた。
「…、The rain in Spain stays mainly in the plain.」
大盤振る舞いのショッピングが済んでフレンチレストランに連れて行かれた真央は、高級ブランドショップのまばゆさにまだ目の前がチカチカするようで、心地よい疲労感に小さくため息を漏らすと、イラズラっぽく笑ってつぶやいた。
「…、スペインでは雨は主に平野で降る…、『マイフェアレディ』、イライザのセリフだね」
対面に座る沢村は、プロのメイクにメイクアップされた真央の美顔にカワイイ笑顔が浮かぶのをみて、愉快そうに笑う。
「だって、これからレディになるレッスンするんでしょ」
お姫様扱いされる心地よさに上機嫌の真央が答えると
「すると私はヒギンズ教授かい?…、あんなオジサンじゃなくて、リチャード・ギアだと思うな」
真央の謎かけをすぐに理解した沢村は、『マイフェアレディ』よりも『プリティ・ウーマン』の実業家のほうが自分に合っていると言いたげだった。
「そう…、じゃあイタリア語、勉強しなきゃ」
沢村のスマートな切り返しに真央はうれしそうに笑うと、『プリティ・ウーマン』でジュリア・ロバーツの演じたビビアンが感動したオペラ『椿姫』を持ち出した。
「大丈夫さ、それより今、パスポート持ってるかい?」
こりずに謎かけしてくる真央に愉快そうに笑う沢村は、見るなら本場だと言うつもりなのか、今すぐにでも国際便のチケットを取るような口ぶりだった。
「あのオペラの原題『La traviata』の意味、知ってる?」
『プリティ・ウーマン』でジュリア・ロバーツがしたようにテーブルの下で足を伸ばして、沢村の股間をふざけてイジる真央が、妖しい笑みで問いかける。
「…、『堕落した女』だろ」
真央のおふざけを無視した沢村は、今度の謎かけもあっさり答えて意味深な笑みを浮かべた。
『堕落した女』は朝あのビルを出てから受けた数々の性的虐待に近い経験で、秘めた性向を目覚めさせた今の真央を暗示していた。心の奥に潜む淫らな想いが無意識下に働いて、露悪的な気持ちになっていた真央はそれを問いかけていた。
簡単に正解されて内心つまらない真央は、しかしふくれたりせずに艶っぽい笑顔を保って足先の愛撫を続けていた。
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