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真央 (19)放逐

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真央 (19)放逐

「入るときはボタンの下に指紋認証のスキャナがあるから、そこに指を入れて…、銀行のATMにあるのと同じだから、わかるよね」
真央が淫らな妄想を浮かべてカラダを熱くしているのを、無視しているのか、気づかないのか、男はさっきから変わらない態度で続ける。

男は言い終わると真央が理解したかどうか様子をうかがっている。さっきのボタンに指紋認証の機能があると勘違いしていたが、ただの押しボタンだったようだ。入るときにチェックされるのが道理で、真央はなんとなく男の言葉に納得していた。

「…わかります」
女体のざわめきを気付かれたくない真央は、ぶっきらぼうに応えた。しかしカラダはますます熱くよがり欲情し、このせまい空間で男が襲いかかってくるのを待っていた。

「…、出入りは地下からだけだから」
男の言葉が火照った体に響く。ピンクのモヤがかかった頭で男の言葉を反芻した真央は、エレベーターのボタンが開閉ボタンしかない事に気付くと、これはあの階専用エレベーターなのだ、とまた呆れていた。動き出してからずいぶん経っているし、多分最上階と地下を結ぶ専用エレベーターは、慎ましい学生の身分からはずいぶん無駄遣いな気がした。

このとき男が「主人」と呼ぶ謎の男は、このビルのオーナーかもしれないと思った。

「…、あれ、ボクのだから」
やっと扉が開くとそこは駐車場だった。男は黙ってエレベーターを出ると、歩きながらゆっくりと手をあげて指さした。

「あれ…」
男が指さす先にあるのは、車に興味ない真央でも知っている高級外車だった。数千万円するスポーツカーだ。真央はニコニコと笑うこの男をただの使用人ぐらいに思っていたが、召し使いどころか王子様でどうやら「主人」と同じ側にいる人間のようだ。意外な思いに真央はマジマジと男の顔を見つめていた。

「…今度ドライブしようね」
相変わらず真央の表情の変化に全く頓着しない男は、ニコニコ笑っていた。
「…、結構です」
送ってくれないのだと不満な表情が顔に出た真央だったが、こんな男の車に乗るなんてダメだ、とすぐに理性が否定する。

「…わかる?」
広い地下駐車場から出ると、男は出てきたビルを指さした。
「あっ」
真央はそのビルをすぐに思いだした。大学に行く途中で見る高層ビルだ。ここなら道順を教えてもらわなくても、ひとりで来られる。しかしこのビルのオーナーだとしたら、「主人」はとんでもない金持ちということになる。そんな金持ちに見込まれたのだとしたら、真央のような一介の学生にはとても太刀打ちできる相手ではない。自分が蜘蛛の巣にかかった蝶のように抗いがたい何かに捕らえられた気がして、なんだか惨めで矮小な存在に感じた。

「駅、わかるよね」
男は駅の方角に目線を向けて、ニッコリ笑う。
「…はい」
男の涼しげな表情が何となく一仕事終えてせいせいしているように見えて、真央は無表情で応えた。

「…あっ、これ」
真央が挨拶もせずに歩き出そうとすると手首をつかまれた。真央がビクッとして振り返ると男がカードを差し出した。沢村と名字だけが書いてある。あとはケー番が書いてある。

「…何かあったら、連絡して」
それだけ言うと男はきびすを返してビルに戻っていった。手首に残った男の熱いグリップにドキドキして女体の芯を熱くする欲情の炎の勢いを増した真央は、ウズウズする淫靡なカラダをもてあましながら、突き放されて置き去りにされた惨めな気分に落ち込んで、駅に向かってとぼとぼ歩き出した。

真央 (20)につづく
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