裏ろま中男 作品リスト少女真希 目次少女真希 (31) 約束
英語の授業でエリの美しい声がしずかな教室に流れていた。
「…あっ」
真希はつい声を出してしまった。
「…、真希さん、何か質問かな?」
生徒の間を歩きながら教科書を朗読していたエリが、ちょうど真希の横にいて声をかけた。
「…、あの、スイマセン、何でもないです」
真希は赤くなっていた。
「…そう、…」
笑顔でうなずくとエリはそのまま朗読を続けて、教卓に戻った。
「なにやってんだ」
雄次が責めるような、しかしエリに聞こえないようにひそひそ声で真希に言った。
「…、今日予習してきた?」
真希は雄次に聞いていた。昨日帰ってすぐ寝てしまった真希は予習するのを忘れていた。
「真希さん、ボーイフレンドと仲良くするのは休み時間にしてね」
エリが真希に笑顔でちょっとにらむような表情を向けていた。エリはそんな表情をしてもカワイイと男子生徒たちはニヤけていた。
「…いえ、ボーイフレンドなんて、…」
真希は赤くなって応えた。
「…、じゃあ、真希さんにこの問題ヤッテもらおうかな」
エリが真希にニコニコしながら言った。
「…えっ、はい…、お願い、ノート貸して」
真希は雄次に耳元にささやいた。
「…、いいけど、オレのお願いも聞いてもらうぞ」
ノートを渡しながら、雄次はこっそりとささやいた。
「真希さん、予習してこなかったのね」
ふたりのやりとりはエリにバレバレで、
「…でも、優しい男の子は先生も好きだから、許して上げる。優しい彼でよかったね」
エリがニコニコして言うのに、教室全体がどっと笑った。
「…彼じゃ、ありません」
真希が赤くなって、エリににらむような顔を向けると
「いいから、いいから、どうぞ」
エリがニコニコして真希にチョークを渡した。
真希が借りたノートを見ながら黒板に答えを書くと
「良くできました、…雄次君、よく予習してるね」
エリがニコニコして言うとまた爆笑が起こった。真希は恥ずかしくて真っ赤になって席に戻った。
「約束忘れるなよ」
雄次がエリの言葉に笑いながら、ノートを返す真希に耳打ちしていた。
「…わかってる」
真希は赤い顔をしたまま応えた。
「絶対だからな」
雄次が念を押すと
「しつこい、って」
ちょっとイラついた真希の声が教室に響いていた。
「先生、授業続けていい?」
真希の声にエリがまた笑顔で聞いていた。
「…失礼しました、どうぞ続けてください」
真希がかしこまって席に座り直すと、また笑い声が起こっていた。
「雄次君も、たまには先生を見てね」
腰に手の甲を当てやや首をかしげた笑顔のエリが、はにかんだような目で雄次を見ていた。イヤミのない笑顔だった。こんなエリの天然なところが生徒に人気があった。
そんなカワイイ仕草で笑うエリに大喜びの生徒たちの笑い声に混じって、
「…雄次、モテモテだな」
「…二枚目ね、雄次君」
雄次をはやし立てる声が聞こえていた。雄次は照れたように頭をかきながらエリの顔を見てにやけていた。
エリににやける雄次にヤキモチを感じなくもなかったが、真希はエリの天真爛漫なところがカワイイと思っていたし、それ以上の感情は起こらなかった。それよりも雄次が念押しする約束が気になっていた。
「…」
真希が雄次をチラ見すると、その視線に気づいた雄次が優越感に満ちた目で見返してきた。
「!」
真希は何だがムカついてそっぽを向いていた。
授業が終わると、教室を移ろうとする真希に
「昼休み、一緒にメシ食おうぜ」
と雄次が声をかけた。
「…うん」
真希は無表情で応えたが、デートに誘われたみたいな気分になって内心ウキウキしていた。
(32) 体育館でにつづく
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