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== 交渉人涼子 ==

交渉人涼子 11話 (20)

裏ろま中男 作品リスト
交渉人涼子 目次

交渉人涼子 Negotiator Ryoko
11話 死なないで…、交渉人涼子よ永遠に (20)

傷口を押さえて助けを呼ぼうとした涼子は、しかし声にならない叫びにむなしく口を開けて唇を震わせた。涼子が苦痛にあえぐ姿を見てカラダ全体でブルブル震えたまま、更衣室を出て特別班の部屋に帰った弥生はスケベな妄想に耽る山田に近寄って、山田さん、ほめて、はさみを握った血まみれの両手を突き出して震えながらムリヤリ笑顔を作った。鈍い光を放つハサミから滴る鮮血に、ハッとなって弥生の顔を見つめた山田に、山田さんのために、やったのよ、…あの女、退治してきたの、弥生は涙をポロポロこぼしながら、山田にすがりついた。

何をした、状況を理解できない山田が弥生を問いつめると、あの女、殺したの…、涙でぐしゃぐしゃの弥生がやっと聞き取れるくらいの声で応えた。山田は最悪の事態が頭をよぎって不安で胸が押しつぶされそうになりながら、あの女、って、と肩に置いた手に力を込めて弥生の顔をのぞき込んだ。山田さんを誘惑した、あの淫乱女よ、嗚咽混じりに吐き捨てるようにつぶやいた弥生を突き放すと、山田は女子トイレに走った。しかしそこに涼子の姿はなかった。…更衣室、と頭に浮かんだ山田は更衣室に走った。

乱暴にドアを開けて更衣室に飛び込んだ山田ははあはあと荒い息を吐きながら、床にうずくまる涼子を見つけて駈け寄った。血だまりの中の涼子に意識はなかった。涼子先輩っ、山田の叫びに返事はなく、血の気を失った涼子が手で押さえる傷口からは鮮血が次々に流れていた。ロッカーから制服のスカートを引っ張り出してくびれたウエストに強く巻き付けると、裸の涼子を手近にあったシャツでくるんだ山田は、グッタリした女体を抱き上げて駐車場に走った。半裸の涼子を抱えて血相を変えて突進する山田に状況を理解しない制服警官はビックリした顔で見送ったが、廊下に点々とついた血糊を見てあわてて後を追った。

覆面パトに乗ろうとしてキーが無いことに気づいた山田は追ってきた制服警官に、キーだ、と叫んだ。あわてて引き返す後ろ姿を山田はジリジリと見つめたが、ちょうどその時パトカーが警らから戻ってきた。涼子を抱えて駈け寄った山田は、涼子先輩が刺されたっ、早く病院にっ、と叫んで後部ドアをガチャガチャさせて開けようとした。運転席の警官が滴る血を見てあわててロックを外すと、大事そうに後部座席で涼子を横にした山田は傷口を押さえながら、早く、病院にっ、と必死の形相で叫んだ。パトカーはサイレンを鳴らして駐車場から飛び出した。

助手席に座る警官は救急セットを取り出すと、狭い車内でカラダをよじって止血パッドを山田に渡した。ひったくるように受け取った山田は腹に巻いた制服を緩めると止血パッドをあててまた強く縛ると、涼子先輩っ、と切ない叫び声を上げた。青ざめた静かな顔に山田は血まみれの震える手を当てて、目を開けて、くださいっ、と叫んだ。悲痛な叫びに反応はなく、心を引き裂かれるような大事な物を無くしてしまう喪失感に崩れ落ちそうな山田は、目に涙を溜めてブルブル震える手を口元に持っていった。手のひらにかすかに涼子の呼吸を感じた山田は、まだ、生きてるっ、早くっ、早く病院にっ、力なく横たわる涼子をかばうように手足を突っ張って全身で覆い被っていた。

帰りのラッシュ時間にぶつかったパトカーは足止めを食っていた。早くっ、言っても詮無いとわかっていても、山田は叫ばずにはいられなかった。重症者を搬送してます、道を空けてください、マイクを握った助手席の警官は前方で渋滞する車列に何度も訴えた。あふれる涙で青ざめた涼子の顔を濡らす山田は、涼子先輩、もうすぐです、ガンバッテくださいっ、嗚咽混じりの叫びを続けた。悲痛な叫びを続ける山田の声が枯れ果てた頃、ようやくパトカーは病院に着いた。今日退院したばかりの病院だった。救急口につけたパトカーから山田が涼子を抱えて飛び出すと、助手席の警官も後に続いて涼子と山田を支えた。

交渉人涼子 11話 (21) につづく
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