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文庫本の彼女 (9)地獄から天国

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文庫本の彼女 (9)地獄から天国

後ろ指、指される…、人生…。
本能的な生殖衝動に支配されて痴漢ナマ本番という犯罪行為をしてしまった水沢は、美しい被害者と歩きながらこれからの惨めな人生を想像して地面にのめり込みそうなほど落ち込んでいた。

え?…、どこに?…。
しかし彼女は駅長室の前を素通りして自動改札を通り抜けた。
「こっち」
水沢は改札の前で躊躇していた。これからの惨めな人生の妄想にうちひしがれてなさけない顔の痴漢中年を、知性的な面差しの美女がはにかんだような笑みで促す。

助かった?…、
痴漢は駅長室に連れて行かれたら逮捕されたのと同じだと知っていた水沢は、いったんは安堵したが
いや、直接警察に、突き出すつもりか…
駅前の交番を思い出してやはり犯した罪からは逃れられないのだと落ち込み、絶望のフチに追い込まれていた。

寄り添うように歩く彼女はうつむきがちで時折顔を上げて意味深な視線を投げかけてくる。

逃げ出すなら、いまだ…、
絶望的な状況に追い詰められて理知的美女が投げかける艶めいた視線に気付く余裕のない痴漢現行犯は、腕を掴んで拘束するでもない彼女から逃げ出すことさえ考えていた。
でも…。
しかしここで逃げ出したら彼女とはこれっきりだと思うとそれも出来なかった。水沢は彼女の美しい知性的な横顔と魅惑的なカラダにすっかり魅了されていた。

駅ビルを出ると左手に交番が見える。

逃げないと…、
犯罪者の烙印を押される瀬戸際にいよいよ追い込まれた中年はそれでも彼女の魅力から去りがたく感じて逃げ出せずに立ち止まっていたと後になって想起したが、
逮捕なんて…、いやだ…。
警察の厄介になった経験のないヘタレ中年はプチ刑務所のように見える交番を見つめ、足がすくんで動けなくなっていたというのが事実だった。

「?…、こっち」
茫然と立ちすくむ水沢に不思議そうな視線を向けた彼女は交番とは反対方向に歩き出した。
え?…、こっち、どっち?…。
短めのジャケットの下で柔らかい曲面をみせるお尻がセクシーに揺れていた。歩き出した彼女の妖艶な後ろ姿に水沢は見とれていた。
「はああ…」
つき出さないのか…。
ひとまず逮捕はないとわかって気の抜けた溜息を漏らした中年男は、絶体絶命の緊張感から解放されて全身から力が抜けていくのを感じた。

過度の緊張で疲労した脳が考えることを拒否したのか、この先を何も想像出来ないオッサンはうかうかと彼女のお尻についていった。

熟れた女体から漂うフェロモンに誘われて夢遊病者のようにとぼとぼ歩いていた中年は、いつのまにか駅の近くの公園にいた。
「こっち」
彼女は恥ずかしそうな笑みを浮かべて手招きして女子トイレに入っていった。何の頓着もなく人生で初めての女子トイレに入った水沢は個室に誘い込まれていた。

「キレイにしてあげる」
レーストップに飾られた太ももをムッチリさせて股間の前にしゃがんだ彼女が下ろしたファスナーに手を入れた。
「…、えっ」
駅前から思考停止していたオッサンはダランとした息子が彼女の口に吸われる感触にやっと正気に戻った。
「きもち、いい?」
脱力したヘニャチンに濃厚なお口の奉仕を捧げる知的美人は顔を上げると上目遣いの小悪魔な笑みを見せていた。

「はあ?…、あうっ、はうう…」
どういう?…、
ついさっきまで司直の手に委ねられて犯罪者のレッテルを貼られると戦々恐々としていたヘタレ中年は情けない声で聞き返したが、
はうっ、ああっ…、たまらん…。
半立ちの息子にまとわりつくネットリ温かい快感にだらしないバカ面をさらしていた。

文庫本の彼女 (10)につづく
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