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文庫本の彼女 (1)水沢というオッサン

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文庫本の彼女 (1)水沢というオッサン

エラそうにしやがって…。
通勤電車に揺られながら水沢は心の中で悪態をついていた。ヤブにらみする水沢の視線の先には座ってナマ脚を組んだ女子高生がいた。


水沢義人はそろそろ40に届こうかという中年男でそこそこの会社に勤めて17年になるが、いまだに係長止まりだった。

同期の多くは課長以上に昇進しており後輩でも自分より昇進にしたモノが多く、部長になっている人間もいる。

昇進した同期や後輩より自分が劣った人間だと水沢は思っていない。顧客の評判は良く、仕事の評価は同期ではかなり高かった。水沢が出世できなかった理由は一つに休みが多かったことだ。

そこそこの企業らしく世の中の流れに迎合して実力主義を謳っていても結局旧態依然とした人事制度は改められず、「休まない、遅れない、仕事しない」人間が出世していた。

「休まない、遅れない」はその通りの意味だが、本当に「仕事しない」人間が出世することはもちろんない。自分だけで仕事をしようとする人間は係長どまりで、うまく部下を使って「仕事をさせる」つまり自分だけで「仕事しない」人間が上に行ける。


水沢が部下を使う能力において特に劣っているということはなかったが、女子社員のあしらいに失敗したことが彼の運命を決めた。

水沢は主任になったばかりのころ部下の新人女子社員に言い寄られた。見た目はそこそこカワイかったが腰掛けOLの典型だったようで、コギャルをそのまま引きずっているような女性だった。

仕事が面白くなってきたばかりで彼女とつきあうつもりはなかったが水沢は真摯に対応しようとした。しかしその態度が気に入らなかったのか逆に反感を買った。

デタラメなウワサを言いふらしたその女子社員は他に結婚相手を見つけてさっさと会社をやめてしまったが、ウワサは女子社員の間で根強く残り水沢は女子社員から忌み嫌われる存在になってしまった。

女子社員から総スカンを食った人間を上司は昇進させようとは思わない。旧態依然が密かに幅を利かせる職場では社員同士の「和」が何より大事なのである。

自分では精一杯の誠意を示したつもりがとんでもないしっぺ返しを食らった水沢は女性不信になってこの年まで出世も結婚もできずに来てしまった。


女子社員のあしらいに失敗したことは会社員として必要な対人関係における人間力のなさを示しているが、実務的な仕事では自信を持っていた水沢は会社にたいして不満を持つようになった。

そんな気持ちでする仕事には身が入らずミスが目立つようになり、それがまた水沢を苛立たせてミスを誘発するようになっていた。

こうして負のスパイラルにはまり込んだ水沢は万年係長の座に甘んじていた。自分で思う実力が評価されないことを嘆き、退屈な日常の些細な出来事に腹を立て不満を託つイヤミなオッサンに成り下がっていた。


電車に乗り込むときに水沢の足を踏んだ女子高生は濃いマスカラに飾られた半眼で一瞥すると、フンと鼻息が聞こえてきそうな生意気な表情を見せてあやまりもせずに空いていた席に座った。

ガキのクセに、色気づきやがって…。
盛り場にたむろしてそうなハデなコギャルのナマ脚からかすかに漂う淫靡な雰囲気に、潜在意識でオスの本能を刺激される中年男は、無意識にそれを打ち消すように心の中で呪詛の文句をつぶやいていた。

文庫本の彼女 (2)につづく
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