ろま中男3 作品リスト交渉人涼子2 目次交渉人涼子2 7話 涼子の休日
(4)おしめ
「はあ…、着きました」
慣れない外車に茉莉を乗せているのでいつもより慎重に運転した山田は、デパートの駐車場に車を停めてサイドブレーキを引くと、ホッとしてため息をついた。
「あ、あれっ、どうしちゃたの?…、いない、いない、バア…」
山田のその声を待っていたかのように茉莉がグズり出す。天使のような笑顔しか見て無かった愛がオロオロしていた。
「ウンチよ、おしめ替えないと」
対照的に冷静な涼子が替えのおしめを出すと
「あ、ウンチですか、よかった」
何がよかったのかよくわからないが、いつもの脳天気な笑顔に戻った愛は、ベビーシートから茉莉を抱いて後部座席でおしめを替えはじめた。
「くちゃい、くちゃい、でちゅね」
あら、手慣れてるわ、…。
お気楽婦警は思ったより慣れた手つきで乳児のおしめを替える。
「茉莉のウンチは臭くないよ、オレ、茉莉のウンチだったら、食べられるから」
愛のお気楽なセリフにいきなり振り返った山田が、親バカぶりを発揮して気色ばむ。
「…、それじゃ、変態ですよ」
さすがの愛も山田の親バカというより変質者じみた発言にドン引きして、怖じけた表情を見せる。
たしかに…。
このときばかりは涼子も愛と同意見で、山田に疎ましそうな視線を向けると、
「耕太さん、窓開けて」
320iの窓を開けるように言う。
「いいえ、開けません、茉莉のウンチは臭くありません」
普段は涼子に言いなりの山田が、このときばかりはなぜか意固地に逆らっていた。
「いいから、開けて」
夫の変態じみたこだわりにつきあうつもりのない涼子は、山田に抱きつくようにしてドアに手を伸ばすとすべてのウインドウを全開にした。
「だって、茉莉のウンチは、涼子さんのオッパイからできてるんですよ、オッパイは涼子さんの血と成分は同じなんですよ」
出産後も形のいいまま拡大を続ける胸を押しつけられた山田は、こわばった表情を緩めたが、それでも茉莉のウンチが臭くないことを熱弁する。母乳の成分が母親の血液と同じだと知ってから、山田は授乳する涼子を神聖化さえしていた。
「なるほど…、そうですね…、涼子さんの血液と同じですもんね…」
手早くおしめを替えた愛は意外にも山田の説明に納得して、天使の笑顔を再起動させた茉莉をあやしながら、ウンウンとうなずいていた。
「耕太さん、わかったわ…、でも私は、やっぱり臭い」
山田なりにこだわる理由はわかったが、ウンチはやっぱりウンチだと思った涼子はきっぱりと言い切った。
「そんな…」
母が愛児に自分の血を分け与える崇高な行為に対する、真摯な思いをあっさり否定された山田は、ガックリとうなだれていた。
「だけど涼子さん、プライベートだと『耕太さん』って呼ぶんですね」
使用済みおむつを汚物入れに入れた愛は、しおれる山田がかわいそうだと思ったのか、あるいは何考えてないのか、いきなり話を変えて公務中とは違う涼子をはやし立ててお気楽に笑う。
「え、へへっ…、そうなんだ」
そのセリフにたちまち立ち直った山田は、うれしそうな笑顔を見せた。
「行きましょ…、耕太さ…、あ…、トランク、開けて」
普段他人に見せない素顔を見られた気がした涼子は、急に恥ずかしくなって車から出た。ベビーカーを取り出そうとついまた山田を呼ぶと、気恥ずかしさにそっぽを向いていた。
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