ろま中男3 作品リストろま中男劇場 目次3ろま中男劇場 7.オレは景子 (3)トラブル続き
なんだ?…。
駅までの道のり、何となく視線を感じる。
そうか、オレは今、北○景子なんだ、それで注目されてんだな(笑)、…。
オレはオレじゃなくて北川○子になったこのカラダが注目されていることにあらためて気付いた。
おっ…、だらしねえ顔、しやがって、…。
なんだか笑い出しそうなオレはサラサラした長い髪を手でなびかせると、振り向きざま流し目を送って気取って笑ってやった。目線の先にいたどう見ても女と縁がなさそうなブサメンが、顔をだらしない笑いでゆがめてこっちを見てやがる。
ちょっと、からかってやるか、…。
ますます調子に乗ったオレはだらしない笑いを浮かべるブサメンの前まで行くと、ニッコリ笑って頭をかしげてやる。
「あ…、あの…、き、北川、けっ、景子さんですよね、ふぁ、ファン、な、なんですっ」
笑顔だかよくわからない表情で顔をゆがめたブサ野郎は、汗をダラダラ流してドモリながら話しかける。
「バカかっ、オレは男だっ」
生まれてこの方オンナとつきあったことは皆無だと思われるこの男に、ちょっと同情したオレだったが、景子のカワイイ声で叫ぶと心を鬼にして思いっきり股間を蹴り上げた。
「あぐっ、うう…」
激痛にのけぞった男は股間を押さえてその場に崩れ落ちた。
かわいそうだけど、アイドルの追っかけなんかしてないで、分相応に生きろよ、…。
美しい容姿を手に入れたオレはなんだかえらくなったような気になっていた。地面にへばりついて悶絶する男に上目線の捨て台詞を心の中でつぶやくと、颯爽と立ち去っていった。
それから駅に着くまで常に誰かの視線がオレのカラダに突き刺さっていた。誰かに注目される経験などほとんどなかったオレは、なんだから落ち着かなくて背中が痒かったが、無表情を保って駅まで歩いた。
駅の改札を抜けると誰かがお尻にタッチした。ギョッとなって振り向くと
「北○景子だろ、変な格好しやがって…」
ニヤニヤしたヤンキー風の男(少なくともオレにはそう見えた)が、小バカにしたような口調で手の匂いを嗅いでやがる。
「オレは、男だっ」
カッとなったオレはまた股間を蹴り上げていた。ヤンキー男はよける気配もなく急所を痛撃されて、無表情のままその場にしゃがみ込んでいた。
あらま、またやっちまった…、逃げよ、…。
この手合いに絡まれるとやっかいなので、オレは脱兎のごとくその場を去った。しかしこれだけ手足が長いと、ただ走るだけでも楽しい。オレはカワイイ顔をニンマリさせて、長い髪を風になびかせて大股を広げ、楽しげにホームに向かって駆けていた。
ホームに着くとちょうど電車が来ていた。オレは駆ける勢いそのまま電車に飛び乗っていた。ドアに張り付いてホームの様子を窺ったが、あのヤンキーが追ってくる気配はない。
へ…、尻?…。
しばらくドアに寄りかかっていると、また正体不明の男がすり寄ってきてジャージのお尻にタッチしてくる。
う、うええ…、きもち、わりい、…。
生まれてはじめて男から尻をまさぐられたオレは、ミミズが背中を這い回るような、総毛立つようなおぞましさに全身を震わせた。
「やめろっ、オレは、男だっ」
許せん、このっ、ヘンタイ野郎、…。
おぞましさはすぐに怒りに変わった。男の矜持を貶められたような屈辱感に襲われたオレは、男のアゴに幻の左を放っていた。
「ぐっ…」
チンにアッパーを食らった男は、あっけなくその場で悶絶した。
「北川○子さんですよね、痴漢ですか?」
となりにいた女性が、まだ鼻息を荒くするオレに話しかけてくる。
「え…、いえ、違います」
気の毒そうな表情になにか興味本位な雰囲気を感じたオレは、慌てて背中を向けると顔を伏せた。このときやっと帽子をしてくれば良かったと後悔したが、女の子がかぶって変じゃない帽子など元々持ってなかった。
「だいじょうぶですか?」
倒れた男を見て、オレが痴漢被害にあったと気付いた男性が心配そうに声をかけてくる。
「なんでも、ありませんから」
痴漢男をハデにぶちのめしておきながら、大事にしたくないオレは男性を無視しようとしたが、
「私がコイツを押さえてますから、次の駅で降りましょう」
男性はそれが男の務めとばかりに、紳士的な笑顔を向けてくる。
「はあ、スイマセン…」
人の親切を無にしては、いかんな、…。
男性の立派な態度に感心したオレは、彼に従うことにした。
ややっ、まずい、…。
が警察に行くとなったら、身分証明書を見せる必要があると思い当たったオレは焦った。今手元にあるのはオッサンのオレが写った免許証だ。
まずいよなあ、…。
男性に従って警察に行ったら、この○川景子の容姿から説明しなければならないが、とても納得できる話ではないだろう。
しょうがない、…。
次の駅について、痴漢男の腕をつかんだ男に促されていったんはホームに降りたが、
「ごめんねっ」
悪いな、勘弁してくれっ、…。
オレは男性を傷つけないように女の子らしい声を作ると、閉まりかけたドアをすり抜けて車両内に戻った。ホームに残された男性は痴漢男の手をつかんだまま、目をぱちくりさせてオレを見送った。
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