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== 夏日 Ver.A ==

夏日 Ver.A (1)午後の雨

ろま中男3 作品リスト
夏日 Ver.A 目次

夏日 Ver.A (1)午後の雨

連日続いたイライラするような猛暑日も、今日は朝から曇りでだいぶ過ごしやすくなっていた。補習の帰りに降り出した雨に、雅之は郁子の家に雨宿りした。

目の前に垂れる雨だれを、雅之はぼんやり見ていた。

「…ジュース、飲むでしょ」
郁子がお盆にジュースを乗せて、部屋に入ってきた。
「?、…ごめんね、私の部屋、エアコン無いから、…暑いでしょ?」
まるで郁子の存在に気づかないように窓に座って外を眺める雅之に、郁子がもう一度声をかけると、
「…あっ、ああっ」
雅之が急に振り返った。低く垂れ込めた雲で薄暗い外の光を背景にして陰になった雅之の表情が、郁子にはよく分からなかった。


郁子と雅之は2年で同じクラスになって初めてお互いの存在を知ったが、席が隣同士だったせいもあっていろいろ話をするようになり、1学期が終わるころには恋人とは言えなくても友達以上の存在だと、ふたりとも思っていた。

郁子は雅之が告白してくれるのを待っていたのだが、奥手の雅之は郁子の気持ちに何となく気づきながら、告白するチャンスと勇気がなくて、夏休みの補習で教室に隣同士で座っていても、妙に意識してなんだかぎくしゃくしていた。

…、今日は、ひょっとして、…。
突然降り出した雨に家がすぐだったコトもあり、郁子は雅之を初めて家に入れた。タオルを渡して自分の部屋に案内した郁子は、キッチンでジュースを入れながら、淡い希望を抱いていた。

郁子の部屋にひとり残された雅之は、かすかにいい匂いを感じて、女の子の部屋にいる自分を意識してドキドキした。そんな気持ちを振り払おうと雅之は外の空気を吸おうとして窓を開けた。雨で湿った空気に触れて大きくため息をつくと、窓に腰掛けてぼんやり外を見ていた。

雨だれが落ちていた。空から落ちる雨粒より大きな水滴は、手が届きそうな1階の屋根にくだけ散ってはまた落ちてくる。雅之は永遠に続くような雨だれをぼんやり見ながら、心にたまっていく何かに、意識が静かに沈んでいく気がした。


郁子に声をかけられて、現実世界に引き戻された雅之は、きっとほおけた顔をしていたに違いない。
「…ああっ、ありがとう、…でも今日は、だいぶ涼しいよ」
雅之は郁子からジュースを受けとって、ストローをよけてコップに直接口を付けるとゴクゴクと喉を鳴らした。
「そうね、昨日は暑かったよね…」
そう応えながら、雅之の突きだしたあごの下にノドボトケが上下するのを見ていた。
「…、どうかした?」
郁子がぼんやりしてると、雅之が声をかけた。
「えっ、…、ああっ、今日、涼しいよねっ」
雅之の男性的な特徴に見とれた自分に、恥じらうように目を伏せた郁子は、あわてて笑顔を作った。

ジュースを飲み干した雅之に
「…お代わり、持ってこようか?」
郁子が聞いた。
「ああっ、いいや、…ありがと」
郁子の落ち着かない様子を見ながら、雅之は気づかないフリをしていた。

横目で雅之をチラ見した郁子は、日に焼けた首に汗が流れ落ちるのを見てドキッとした。
「…あっ、そうだ、補習でわからないトコあったんだ、教えて」
動揺を隠そうと、ぎこちない笑顔を向けると
「…、そうだ、オレもわからないところあるから、教えっこしようよ」
郁子を見ようとしないで、雅之は床に置いたカバンにしゃがみ込んで、テキストを取りだした。

勉強机のイスに座った郁子は、一段低い横のベッドに腰掛ける雅之の低い視線が、セーラー服のふくらみをみせる胸に注がれているような気がして、雅之の顔が見られずにドキドキしてナマ足の太ももをすりあわせながらテキストを見つめていた。
「…どこが、わかんない?」
わからない箇所をテキストから懸命に探しているように見える郁子に、雅之が声をかけると
「あっ、チョット待って」
雑念を振り払うように頭を振った郁子は、テキストを見つめた。

雨は降り続き、雨だれの音が胸の高鳴りとシンクロするように静かに耳に響いていた。

夏日 Ver.A (2) につづく
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