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== みなしごルリイ パパと呼ばないで ==

みなしごルリイ パパと呼ばないで (8)ルリイの決断

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みなしごルリイ パパと呼ばないで 目次

みなしごルリイ パパと呼ばないで (8)ルリイの決断

「ルリイ、一緒に暮らそう」
幼い頃に亡くした母と愛し合った自分の父親だという豪徳寺は、母娘共々捨てられた恨み言を言いよどんで逡巡するルリイに、強い意志のこもったセリフを投げかけた。

「あ…、一緒に、暮らす?…」
え…、私、この人と一緒に住むの?…。
不自由な暮らしをさせてきた娘に精一杯の償いをするつもりの中年男に、真剣な目で見つめられたルリイは、当然の成り行きである提案に戸惑っていた。

貧乏な施設暮らしで現実的な考え方が身についていたルリイは、お金持ちの家でのお姫様の様な暮らしに憧れることはよくあったが、それは夢物語だと常に自分に言い聞かせてきた。

それが現実となって目の前にあることが、厳しい現実と常に直面してきた貧乏娘の精神には受け入れがたかった。

「ルリイには、何不自由ない生活を保障する、だから一緒に住んでくれ」
降って湧いたようなシンデレラストーリーに現実感のないルリイの無表情な顔に、拒絶される不安をかき立てられた豪徳寺は、愛おしい人の忘れ形見を手に入れたい一心で乗り出していた。

「で、でも…、施設の…、シスターが…」
シスターと…、別れなきゃならないの?…、わたし…。
風呂上がりの裸体にバスタオル一枚巻いただけの、むき出しの肩をつかんだ豪徳寺が真剣な目で迫ってくる勢いに気圧されたルリイは、本当の家族のように今日まで育ててくれたシスターたちの顔が急に浮かんで、大きく見開いた目から涙がコロコロとこぼした。

「あ、いやっ、私と一緒に暮らしても、ルリイは施設に、そうだ、いつでも行けるし」
「それに、これまでルリイを育ててくれたお礼は、充分にするつもりだ」
急に泣き出したルリイにまたみっともなくキョドった豪徳寺は、我が家同然に暮らしてきた施設と家族同然のシスターから引き離す残酷さを意識しながら、精一杯の誠意を伝えようとしていた。

「いつでも、行っていいの?…」
わたし、いつでもシスターに会えるの?…。
ルリイはいつもの冷静でしっかり者の仮面を外して、子供のように泣きじゃくってポロポロと涙をこぼす。

まだ混乱して動揺を隠すことが出来ないルリイだったが、シスターたちと引き離されるんじゃないとわかって、少し安心した。

「お礼…、してくれるの?」
お礼?…、施設を、援助してくれるの?…。
それよりも施設に充分にお礼をすると言った豪徳寺が言葉は、ルリイの心を大きく揺さぶった。

大金持ちの豪徳寺が施設を援助してくれれば、乏しい資金で運営に苦労するシスターたちを助けられる。それは母を亡くしてから育ててくれた恩を深く感じていたルリイが、一番望んでいたことだった。

現実的な考え方で生きてきたルリイにとって一番厳しい現実はお金だった。早熟で小学生の頃から世の中のことがわかりはじめたルリイは、資金繰りに苦労しながら自分たち身寄りのない子供たちに優しくしてくれるシスターたちに、口には出さなかったがいつも感謝していた。

そして夜な夜な繁華街に繰り出してエンコーに手を染めていたのは、実は施設のためだった。慢性的な資金不足には焼け石に水とわかっていたが、ルリイはエンコーで手に入れた金を、自分とはわからないように施設に寄付していた。

施設を助けるために身を売るというと悲壮感があるが、しかしファザコンのルリイにとってのエンコーは、だいたい優しいオジサンばかりでつらい想いはあまりしなかった。

初老にさしかかった院長はルリイが何をしているかうすうす気づいていたようだが、我が子同然に育ててきた娘の優しい気持ちに心の中で泣きながら、そのお金を施設のために利用させてもらっていた。

「施設のこと…、ホントに?…」
わたしが、この人の娘になれば…、シスターたちを、助けられる…。
豪徳寺の家に行けば自分ではどうしようもなかった問題が解決できる、そのことがルリイを決心させた。涙を一杯に溜めた大きな目で豪徳寺を見つめたルリイは、真剣な表情で施設援助の意志を再確認した。

「あ、ああっ、出来るだけのことはさせてもらう」
涙に濡れた目に込められた少女の強い意志に、今度は豪徳寺が圧倒される番だった。少女の切実な気持ちがこもった目に動揺気味に応えた中年は、
「だから、ルリイは安心して、ウチに来てくれ」
施設への資金援助を確約してルリイの不安な気持ちを和らげようとしていた。

「うん、わかった…、オジサンの娘になる」
院長先生や、シスターたちに…、
自らのカラダを売ってでもなんとかしたかったお金のことが解決するとわかって、ルリイは豪徳寺の申し出を受け入れた。
お金の苦労させないで、楽させてあげられる…。
捨てられた母や自分の恨み言などすっかり忘れた美少女は、家族同然に育ててくれたシスターたちに自分が役に立てる喜びを、泣き笑いのファニーな顔に漂わせていた。

みなしごルリイ パパと呼ばないで (9)につづく
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