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== ブリとブラ ==

ブリとブラ (16)大丈夫だから

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ブリとブラ (16)大丈夫だから

「律、大丈夫?」
音楽準備室に心配そうな澪が顔を出した。

2限が空きで職員室にいた澪は唯からメールを受けた。慌てて打ったため意味不明な文字列になっていたメールを、暗号解読のプロのごとく解析した澪は、幼なじみの一大事に急いで駆けつけてきた。

澪ちゃんさんや…、この人が一番、しっかりしとるわ…。
ああ…、りっちゃんさんがこんな時には、澪ちゃんさんがそばにいてくれると、心強いな…。

幼なじみの律と澪はボケとツッコミでもあり、いつも調子に乗って脱線する律の方向修正するのが澪の役目だった。そして律がこんな状態の時に澪がそばにいるのがいちばんしっくりくると感じて、ブリとブラは安心した。

「澪ちゃん、来てくれたんだあ…、りっちゃん、ちょっと、おねがい」
泣き止まない律を澪に任せると、唯は生徒たちを待たせている音楽室に戻った。

「律、大丈夫だった?」
ベンチソファの横に座った澪が心配そうに律をのぞき込むと
「澪おっ…、うっ、ううっ…」
濡れた目でつかの間見つめた律は、豊かな胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

「もう大丈夫だから…、恐くないからね」
澪は震えながらすがりついてくる華奢なカラダを優しく抱きしめた。そして人間離れした変態ゴリラ教師に襲われたときの律の恐怖を思い、涙がこぼれそうだった。
「澪、うう…、恐かったよお…、ホントに、うっ、恐かったんだからあ」
頭を優しくなでる手に顔を上げた律は、嗚咽で肩を揺らしながら、澪の優しさに甘えていた。
「うん…、よく頑張ったね…、偉いよ、律…、律は偉い…」
幼なじみの心細げな泣き顔に、もらい泣きしそうになるのをなんとかガマンした澪は、優しい笑顔で励ましていた。

「おまたせっ、あのね、みんなに課題を出します、だから残りの時間は課題の練習、しててね」
準備室から戻った唯だったが、律がこんな時に授業なんてできそうもなかった。
「この曲、練習して…、楽器はみんなの好きなのでいいから、グループで歌ってもいいよ」
唯はいきなりレスポールのギー太を取り出すと、『翼をください』をかなりアレンジして弾いた。

「唯先生、それ『翼をください』ですよね…、でもだいぶ違うみたい」
学級委員ののどかが、オリジナルとはかけ離れた演奏に思わずツッコンでいた。
「うん、原曲通りでもいいし、アレンジもOKだから、来週みんなにやってもらうからね、じゃあ」
早く律のところに戻りたい唯は、それだけ言うとさっさと準備室に戻っていった。

「唯先生、あんな課題って…」
真面目なのどかは教師らしからぬ態度に納得できずに唯を追って準備室に入ってきた。
「…、あの、律先生、どうか、したんですか?…」
そこで律が澪にすがりついて泣く姿を見てしまった。
「あ…、のどかちゃん…、このことは黙ってて、欲しいの…」
あからさまにシマッタという顔をした唯は、モジモジしながらのどかに口止めした。

「はい…、でも…、どうしたんですか?」
のどかはいつも元気な律が泣きじゃくる様子から、ただごとではないとすぐに理解した。聞いてはイケナイと思う反面、なんだか恐くて聞かずにはいられなかった。
「…、のどかちゃん…」
唯は言うべきか迷った。でも見られてしまった後で隠し立てするのは、かえって変なウワサになりかねないと心を決めた。
「絶対に黙っていられる?」
学級委員も務めるのどかの実直な性格をよく知っている唯だったが、重ねて念押しした。

「はい…」
いつも陽気というかフワフワした唯が見せる真剣な表情に、大事件を予感した律はますます恐くなって固い表情でうなずく。
「あのね…、律先生ね…、大山先生に、襲われたの…」
いうべきじゃないと頭の中で誰かが言っていたが、のどかを信用する唯は律の身に降りかかった不幸を告げた。

「襲われたって…」
高校1年ののどかにもその言葉の意味はすぐに理解出来た。澪にすがりついてかすかな嗚咽とともに肩を震わせる律が、どうしようもなくかわいそうに見えた。
「あ、でも、未遂だから…、安心して」
律を見つめる悲しそうな目に慌てて唯が付け加える。
「そうですか…、よか…」
唯のぎこちない笑顔につられて、頬をゆるませたのどかは「よかった」と言いかけたが、律の悲しい泣き声にその言葉を飲み込んでいた。

ブリとブラ (17)につづく
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ブリとブラ (15)英雄の帰還

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ブリとブラ (15)英雄の帰還

「唯っ、助けてっ」
女子更衣室を逃げ出した律は音楽準備室に飛び込んだ。しかし今は授業中で準備室には誰もいなかった。

「あれ、りっちゃん、どうしたの?」
2限目の授業中だった唯は、準備室から切迫した表情でのぞき込む律を見て
「みんな、ちょっと待っててね」
生徒たちに自習するように声をかけて準備室に入った。

「お、大山が…」
唯にすがりついた律は、こみ上げる嗚咽を飲み込んで、強姦未遂事件をなんとか伝えようとする。
「おおやま?…、体育の大山せんせい?…」
すがりつく律の手がガタガタ震えていた。なにかとんでもないことが律の身に起きたのは、鈍感な唯にもすぐにわかった。

「大山に…、襲われたの…」
律の身に起きた何らかの異変に緊張して表情を固くする唯を、涙に潤んだ目で見上げた律はそこまで言うのがやっとだった。
「襲われた…って、襲われたのおっ?」
詳しく説明は出来なくても、少女のように怯えて震えるか細いカラダがすべてを物語っていた。しかし学校でそんなことが起きるなんて信じられない唯は、思わず聞き返していた。

「う、うん…、うわああんっ」
もう限界だった。唯に抱きついた律はお母さんのような柔らかい胸に安心したのか、緊張の糸が切れて子供のように大声を上げて泣いた。
「えっ、や…、りっちゃん、泣かないでえっ」
元気者の律がこんな風に泣くなんて、10年近いつきあいで初めてだった。最初はビックリした唯も、その悲しい嗚咽にもらい泣きして、震える背中を優しくなでていた。


おい、アイツ…。
ブリは唯にすがりつく手に握られた律パン(仮)を見て、ブラに声をかけた。
ああ…。
背中のブラ線あたりに置かれた手に律パン(仮)は握られていた。すでに骸となった律パン(仮)のズタズタに切り裂かれたカラダを服越しに感じるブラは、言葉少なく応えた。

ブリとブラは律パン(仮)を知っていた。唯が律と一緒に下着を買いに行ったとき、律パン(仮)は律に見初められ、ブリとブラは唯に見初められた。同じ棚に置かれていた彼らは同期というより、兄弟のような存在だった。

アイツ…、りっちゃんさんを…、守ったんやな…。
泣きじゃくる律の悲しい嗚咽がブリの胸に突き刺さる。ブリは律パン(仮)が体を張って律を守ったことを、下着の本能で理解していた。
ああ…、命をかけてな…。
服の薄い生地を通して律の嗚咽を直接感じるブラは、律の手の中で幸せそうな死に顔を見せる律パン(仮)が、ご主人様を守るという下着としての仕事を、命と引き替えにやり遂げたことも付け加えた。

…、えらいやっちゃで…、ホンマ、男の中の男や…。
律パン(仮)は与えられた使命を見事全うし、男子の本懐を遂げた。そんな彼に羨望の混じった感動の涙を禁じ得ないブリが、心からの賛辞を送っていた。
ああ…、こんな風になるのを、覚悟の上で…、
人間離れした馬鹿力で見る影もなく引き裂かれ、ボロ布のような律パン(仮)のカラダを感じるブラは、
ホントに…、立派なヤツだ…。
ご主人様を守りたい一心で、バケモノのような真性性欲異常者に勇気を振り絞って立ち向かっていった、律パン(仮)のビジョンが見えていた。

そやな…、悔いはない、はずや…
巨大で邪悪な存在から唯を守り抜いた英雄を、湿っぽく見送るのは失礼だとブリは思った。あふれる涙をこらえて、そう自分に言い聞かせていた。
ああ…、
ブリと同じように男の別れに涙は禁物と顔を上げたブラは、
いつか、コイツと同じところに行ったら…、ほめてやろう…。
ブラリサイクルなどで回収された下着のごく一部、我が身をなげうって奉仕した英雄たちだけがたどり着くと信じられている、下着の靖国あるいはヴァルハラと呼ばれる場所を思い浮かべていた。


「りっちゃん、ちょっと座ってて…、警備室ですか?…」
嗚咽が少し落ち着いたのを見計らった唯は、律を抱きかかえるようにソファに座らせると、警備室に電話した。

要領を得ない電話だったが、唯の切羽詰まった声に慌てて駆けつけた警備員は、律からも話を聞いて女子更衣室に向かった。

あまりの激痛に気を失っていた大山は、警備員たちにフルチンのまま縛り上げられたが、筋肉まみれの巨体が移動できずにしばらく女子更衣室は使用禁止になっていた。

ブリとブラ (16)につづく
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ブリとブラ (14)幸せな殉職者たち

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ブリとブラ (14)幸せな殉職者たち

「や、やめてっ」
股間に直に食い込むおぞましい精神注入棒から逃れたい一心で律が体を返すと、ムギのような奇跡のパンチは繰り出せなかったが、瞬間筋肉だらけの腕から逃げるコトが出来た。

「逃げるなっ、うっ…」
腕の中から抜け出した裸体にタックルの体勢で抱きつこうとした大山は、白ブリ(仮)の作戦通り、足を取られて両腕を空振りさせた。
「げっ」
さらにその体勢のまま床に倒れ込んだ大山の全体重が、突出したカラダの一部分を押し潰した。
「げぐええ…」
陰茎と尿道の海綿体が同時に損傷していた。男性機能がほぼ再起不能な激痛に、変態筋肉は地獄の底から湧き出てきたような、不気味な断末魔の叫びをわめいていた。

「きゃああっ、いやあっ…、ううっ…」
大山の不気味なうめき声に悲鳴を上げた律だったが、変態大魔王のイチモツの異変に気付くと、苦痛にのたうち回る変態筋肉のカラダを半ベソの目でこわごわ見つめた。

「う、ううっ」
全裸のカラダがブルブル震えて腰が抜けそうだったが、逃げるなら今しかないと思った。
「やあっ、やだっ、やだっ」
気がおかしくなりそうな修羅場でかろうじて正気を保つ律は、無意識にロッカーを開けるとトレーニングウェアを引っ張り出し、ハダカのカラダに直接着た。


やったな…。
ああ…、アンタの、おかげだ…。
いいや…、オマエの…、一途な気持ちの…、勝利だよ…。
名も無き二人の英雄の、途切れ途切れの声がする。かすれたその声は、しかし律を救出した達成感に満ちてうれしそうだった。

股間が地獄の業火に焼かれるような、塗炭の苦しみにのたうち回る、変態筋肉の足に絡まった白ブリ(仮)と律パン(仮)は、ゴリラ並みの剛力で見る影もなく無残に引き裂かれていた。

最後の力を振り絞ってかろうじて大山の足を縛り上げる二人は、もう目の前が真っ暗になってお互いの姿さえ見えてなかった。

…、やっぱり、アンタがいなかったら…。
もう、いいじゃねえか…、オマエのご主人様は、無事だし…、コイツは…、天罰を喰らったしな…。
律パン(仮)はパンティの務めを果たし、律の貞操を守り抜いたことが何よりうれしかった。白ブリ(仮)の息は絶え絶えだったが、相変わらず斜に構えてダンディだった。

そうだな…、でも…、アンタには、なんと感謝していいか…。
真っ暗な闇の奥に沈んでいきそうな意識をなんとか保つ律パン(仮)は、ご主人様を裏切って味方してくれた白ブリ(仮)には、どんなに感謝してもしきれないと思った。

いいんだ…、ご主人様の粗相を甘んじて引き受けるのが…、オレたちの役目だろ…。
ばっ…、オレの、ご主人様は、なあ…。
大山の悪辣非道な行いの責任を取ることを、下着としての宿命として当たり前のように語る白ブリ(仮)に、清潔な律を信奉する律パン(仮)が思わず食ってかかる。

ああ…、悪い…、
若い女性を穢す不適切なセリフに素直に謝った白ブリ(仮)は、
ションベンまみれ、クソまみれの人生だったけど…、
最期にオマエに…、逢えたおかげで…、いい人生だったと思えるぜ…。
走馬燈のように頭によぎる辛い人生に苦笑したが、下着としての矜持を思い出させてくれた、律パン(仮)との出会いに感謝していた。

なに、言ってんだ…、お互い、これからだろ…。
そうだな…、オマエは、ご主人様に…、かわいがってもらえ…。
朦朧とした意識で、お互いがお互いの無事を願っていた。
アンタだって、…。
律のトコロに戻れと言う白ブリ(仮)は、たとえ生きながらえても、もう戻るところはないのだ、そう思うと律パン(仮)は言葉につまって何も言えなかった。

生まれ変わったら…、女性用下着だな…、柔らかくて、気持ち良さそうだ…。
ああ…、いいぞ…、天国みたいだぜ…。
もう二人とも大山の足を縛り上げる力は残ってなかった。それでも強がって軽口を叩く白ブリ(仮)にあわせて、涙の止まらない律パン(仮)が陽気に応えた。

に、逃げなきゃ…、あ…。
のたうち回る大山に恐怖しながらトレーニングウェアを着た律は、バケモノの足に絡んでビリビリに裂けたパンティを見た。
パンツ…、どうして…。
愛するご主人様のために命を捧げた漢の純情など律の知るところではないが、その哀れな姿を見つめる目に涙がこみ上げてくる。

私の、パンツ…。
勇気を振り絞って手を伸ばした律は
くっ…、言ってくれるぜ…、お…、
無残に引き裂かれたパンティを握りしめた。そのとき律の手が白ブリ(仮)に触れた。
…、元気でな…。
柔らかい温かさに死に際の苦しみを癒された白ブリ(仮)は、律パン(仮)を優しい気持ちで送り出した。

アンタも、な…、ホントに…、ホントに、ありがとう…。
ホンモノの漢に心から感謝する白ブリ(仮)は薄れていく意識で、自分を置き去りにしないで回収してくれた律にも感謝していた。

よせよ…、照れる、ぜ…。
最後までニヒルを気取った白ブリ(仮)の、それが最期の言葉だった。律の温かい感触を抱いて白ブリ(仮)の意識は途絶えた。
…。
律の手の温かさを感じて幸せな律パン(仮)は、孤独な漢の最期に一筋の涙をこぼすと、そのまま息を引き取った。

ブリとブラ (15)につづく
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