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短編 目次短編 (107)個室(1)
ここはエレベータの中、かれこれ3時間も閉じ込められたままだ。
日本国内なら優秀なエレベータ技師が迅速に修理してすぐに解放されたかもしれないが、ここはイタリアだった。
インターホンに応えるイタリア語(英語だったかもしれない)は何を言っているのかほとんどわからないし、こちらが助けを求めていることが通じているのかさえ、定かではない。
対応もずいぶんのんびりしている。ひょっとしてシェスタが終わるまで仕事をしないつもりかも知れない。
イタリア人の危機感のない対応は国民性とあきらめればガマン出来るが、なにより最悪なのは見知らぬ女性と二人きりという状況だ。
1階で乗り込んだときに一緒になった若い女性は、ここに閉じ込められてから一言もしゃべらず、対角のスミに体を押しつけるようにして突っ立っている。
見た目は東洋系なのだがオレのへたくそな英語がまったく通じてないのか、話しかけてもまったく無視で、それどころかこちらを警戒して震えているようにも感じる。
吊り橋効果なんて嘘っぱちだ。
危機的状況で恋が芽生えるなんてのは、きっと色欲異常者の妄想に違いない。
気まずい空気が支配するエレベータの中でオレはそんなことを考えていた。
こっちを警戒して構えているのであまりジロジロと見られないが、若くて美人な上に露出度の高い服装からはセクシーな女体が艶めかしい。はっきり言って好みだがとりつく島もないってヤツで、気詰まりで窒息しそうにさえ感じる。
「まだかな?…」
沈黙にガマン出来ずつい口に出してつぶやいていた。しかしこれでまたひとりでつぶやくアブナイヤツと思われたかもしれない。
「助けてくれっ」
…、
居たたまれなくて今度はインターホンにつぶやいてみたが、まったく応答がない。
ちっ、これだからイタリア人は…。
第二次大戦で真っ先に白旗を揚げたヘタレナンパ野郎が頭に浮かんで、ムカついて怒りが爆発する寸前だが、この状況で暴れたらきっと彼女に異常者と思われるだろうから、なんとか押さえた。
「う…、うう…」
そんなこんなで3時間ほど経ったワケだが、それまで黙ってうつむいていた彼女がいきなりしゃがんで苦しそうなうめき声を漏らした。
はあ?…、なんだよ?…。
セクシー美人でも愛想のない敵意むき出しの彼女に救いの手を差し出すべきか、この状況でそんなひねくれた屈折した想いに囚われていた。
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