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未亡人涼香 目次未亡人涼香 (1)青天の霹靂
「義姉(ねえ)さん…」
涼香は夫の弟の健司に促されて霊安室に足を踏み入れた。地下にある霊安室はひんやりして、涼香は素肌をなでる空気の冷たさを痛いほどに感じた。
真ん中に寝台が置かれた部屋は時が止まったかのように静かで、人型を浮き上がらせた白いシーツがイヤでも目に入ってくる。
「…、義姉(ねえ)さん…」
立ち尽くす涼香の肩に申し訳なさそうに手をかけた健司が、もう一度声をかける。
「…」
小さくうなずいてショートヘアのスソをかすかに揺らした涼香は、静かに歩を進めて寝台の前に立つ。
健司がシーツを上げると真一の顔が現れた。
静かに目を閉じたその顔は、寝ているようにしかみえず、寝息が聞こえてもおかしくない気がした。
「…」
茫然と立ち尽くし、最愛の夫の安らかな顔を見つめていた若妻の肩が、かすかに震えていた。
「真一さ、ん…」
夫の名を呼ぶのと同時にヒザが落ち、頼りなげな背中が寝台にすがりついて嗚咽を漏らす。
夫を亡くした妻の悲しいすすり泣きが、霊安室のひんやりした空気を震わせていた。
広末涼香は短大卒業と同時に仁藤真一と結婚し、翌年にはカワイイ女の子を授かり、幸せな結婚生活を送っていた。
そんな幸せな生活は5年ほど続いたが、今日突然奪われた。
交通事故だった。
出張帰りで帰社する途中だった真一は、会社の近くの横断歩道で乗用車にはね飛ばされた。
打ち所が悪く即死だった。最愛の妻に別れの言葉を伝える、ほんのわずかな時間さえ与えられず、真一は旅立たなければならなかった。
警察から連絡を受けた涼香は、警察官の事務的で沈鬱な声が告げる残酷な知らせに、糸が切れたマリオネットのように床に崩れ落ちた。
大学が休みで家にいた健司が、涼香の手から受話器を引き継ぎ、兄の死を知らされた。
茫然自失の涼香を連れだした健司は、タクシーで連絡された病院に向かった。
健司が受付で警察から連絡があった通りの話を伝えると、真一をエンゼルケアしたナースが霊安室まで案内してくれた。
冷たくなった真一と対面した涼香は、電話を受けてからずっと黙ったままだったが、二度と目を開けることのない夫の名を口にすると、いつまでも悲しい涙と嗚咽に暮れていた。
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