ろま中男3 作品リスト女医冴子 目次女医冴子 (1)冴子
冴子は精神科医として3年目になる。
良家の子女として経済的にも恵まれ、容姿端麗頭脳明晰という神からすべてを与えられたような冴子は医大入試も現役で突破し、卒業まで何不自由ない人生を送ってきた。卒業後の医師国家試験もすんなり合格し、大学病院で研修医としての生活がはじまった。
冴子が研修医(正確には前期研修医)になった頃はまだ新臨床研修制度が始まる前だった。大学病院の低賃金で人間扱いされない過酷な労働条件に耐えて、内科外科など一通りの医局を経験した。
医大卒業までの24年間、両親をはじめとして優しい人たちの善意に包まれて生きてきた冴子は、精神科の研修で心に傷を負って精神的に追い詰められた人たちを見た。他人を思いやる余裕のない病んだ人たちだったが、問診をして詳しい話を聞いてみると優しい心根の純粋な心を持つ人たちが多いことに驚いた。
優しすぎるが故に他者の敵意に耐えきれずに心に傷を負ってしまった人たちだった。冴子は自分が今まで恵まれた環境に生きてきたことを痛感し、ちょっとした運命のいたずらで自分も目の前にいる患者と同じ立場にいたかも知れないと思った。
そして冴子は現代の病の根底は心の裡にあると考えるようになった。病んだ心の赤裸々な実相に触れることで、人間の不可解な感情を理解出来るかも知れないと考えた冴子は、精神科医になる道を選んだ。
2年の前期研修期間が終わって精神科医局を希望した冴子は、最初は様々な患者の心の傷に圧倒されるばかりで、患者の辛い過去に触れてどうにもガマン出来ずに泣き出したこともあったが、経験は彼女を強くした。
今では患者の辛い境遇に接して心の裡で涙を流すことはあっても、常に優しい笑みで患者を見守ることが出来るようになった。何かに怯えて不安な気持ちを抱える患者にとって、医師が泰然自若として優しく見守ることが何よりの薬だと知ったからだ。
悪戦苦闘の連続で自分との戦いでもあった2年間の精神科医生活だったが、患者が心の傷を癒して笑顔を取り戻すことが冴子にとって何よりの喜びだった。最近では精神科医の自分に自信を持ってもいいように思うようになった。
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